街全体が、ホワイトベール一色に染まる。視界が魅了されるほど、美しく儚い雪。

　あっという間に四季は変わり、1年の最後にぴったりの季節がやってきた。

　今朝は寒さで普段よりも早く目が覚めてしまった。起きても寒いだけなので、ベッドの中に篭りながら携帯でネットサーフィンにふけいる。

　正直、これといって何かを調べるわけでもなく、ただただ流れる動画に目を慣らす。

　ネタ動画、可愛い動画、心霊動画などが今の時代では簡単に見ることができる。時間を潰すにはもってこいだが、有益な時間の使い方には到底思えない。

「希空〜。起きないの？」

　下の階からママが私を呼ぶ声がうっすらと聞こえる。

　携帯の時間を確認する。私が起きた時間よりも1時間も経過していたことに、少し驚きが隠せない。

　ダラダラ過ごしているうちに1時間も経っていたらしい。

（あ〜、勿体無い時間の使い方）

　頭では無駄だと思ってはいるが、一度見てしまうとなかなかやめられないのがネットの怖いところでもある。

　ベッドから足を出し、フローリングの床に素足で足をつける。

「ひゃ！　つめたっ！」

　床が凍っているのでないかと思うほど、凍りついたように冷たい。それに、ベッドを出た瞬間にさっきまで私を守っていた熱が一瞬で何処かへと逃げ去っていく。

「これだから、冬はベッドから出たくなくなるんだよな〜」

　ブツブツと文句を口にしながら、階段を降りる。家中どこも冷たくて、足がかわいそうに思えてくる。

　やっとのことで、リビングにたどり着くと、ほわ〜っと温かな空気が私の体を覆う。

「やっと起きてきた。今日は、太陽くんに会いにいく前に駅前になんか買い物行くって言ってなかった？」

「うん。言ってた気がする」

「冬休みに入ったからってだらけちゃだめよ？冬休みは意外と短いんだから」

「いいじゃんか〜、今日くらいは。だって、今日は待ちに待ったクリスマスだよ！　しかも、昨日の天気予報ではホワイトクリスマスになるって言ってたし！」

「はいはい。楽しむのはいいことだけど、しっかり体調と周りをよく見ることね。見てよ、希空」

「ん？」

「お父さんなんて、今朝私が『希空は今年は彼氏とのクリスマスだよ』って言ってからずっとこの有様よ。全く全国の娘を持つお父さんてこんな感じなのかしら。それとも、うちのお父さんが娘離れできてないだけなのかしらね」

　ママが見ている方に視線を移す。そこには、意気消沈しきったパパがソファーでうずくまっているではないか。

　見るからに負のオーラ全開感が凄まじい。何も声をかけることができないような、触れてはならないようなオーラがパパの周辺から解き放たれている。

「希空が・・・彼氏と・・・クリスマス・・・」

　話しているのは聞こえるが、どれも断片的な単語ばかり。もはや、話しているのではなく1人で嘆き悲しんでいる模様。

「全く昨日一足先に家族でクリスマスパーティーしたからいいじゃんかね？それの何が不満なんだか、私にはさーっぱりわかりませーん」

「ママにはわからないよ！　大事な愛娘が心配で心配でたまらない！」

「いい加減にしなさいよ。希空ももう高校生なんだから。いつまでも『パパ、パパ』って子供じゃないんだから」

「それでも、僕は希空にパパって構ってもらいたいんだ〜！」

　こういう時、私以外の子はどう思うのだろう。『うざい』とか『キモい』とか卑劣な言葉を親に向けてしまうのだろうか。

　正直、私はそんなことは思わない。多少、「子供扱いをしないでよ」とは思ってしまうが、これも2人の愛だと私は思う。

　私だって、2人のことは大好きだ。私を産み、育ててくれて、ここまで育つことができたのは2人のおかげなのだから。

　でも、私だって年に1度の記念日には、両親以外に大事な彼氏と会うことくらい許して欲しい。

　私たちのクリスマスはきっと、今年で最後になってしまうから。ホワイトクリスマスもイルミネーションの点灯もサンタクロースのコスプレをした人たちも私たちにとっては最後なんだ。

　だから、今日くらいは許してね。パパ、ママ。

　私の気持ちくらい2人には、お見通しだろうけれど、これだけは言わせてほしい。

「パパ、ママ。大好きだよ！　メリークリスマス！　今夜は楽しもうね！」

　2人の顔に笑みが浮かび上がる。それにつられて、私の顔には透明な雫が目から頬を伝っていた。