学校を出る時には、日が完全に暮れきっていた。

 朝家を出た時に手にした、日傘はこの時間は用無し。右手で日傘を持って、通学路を未來と歩く。

 今日は帰るのが遅くなると、事前にママには伝えているので迎えの心配もいらない。

「本当にそれでよかったの?」

「うん。買ってくれてありがとう」

「全然いいんだけどさ、希空が私に教えてくれた量に比べたら」

「テストまで続くんでしょ?」

「げっ! ばれた?」

「当たり前。何年親友やってると思ってるの?」

「さすが親友だわ。やっぱり持つべきものは、親友だわ」

「ほんっと調子がいいんだから未來は」

「褒めてる?」

「まっったく褒めてない!」

「それより、美味しいね。肉まん」

「寒いと肉まんが食べたくなるよね。ほくほくした後に吸う冬の冷たい空気が、また肉まんの美味しさを引き立ててくれる」

 未來に買ってもらったのは、肉まんひとつ。コンビニに入って、レジ前の肉まんに一目惚れをしてしまった。当然、アイスは寒いので却下。

「随分語るね。肉まん評論家ですか?」

「なんか、卑しいみたいで響きが嫌だな」

「ところでさ、太陽くんは元気?」

 唐突すぎる話の切り替わりについていけず、口から肉まんを吹き出しそうになってしまう。

 気管に入ったのか、むせている私をおもしろそうに笑っている未來に殺意が湧きそうになる。

 一体誰のせいで、こうなったと思っているんだ。

「はぁ。未來のせいで、肉まん変なところに入ったじゃん。急に太陽の話するからびっくりした」

「ごめんごめん。純粋に気になってさ。希空が元気そうだから、多分彼も元気なんだろうけど」

「まぁ、元気は元気かな。未だに顔は見せてもらえないけれどね」

「そうだよね。そう簡単には見せることできないよね。ま、あとは彼を信じるしかないね」

「うん」

「私はいつでも希空の味方だからね。どんなことがあっても最後まで側を離れるつもりはないぞ〜」

「それはこっちのセリフ。この世を去っても、未來の後ろに引っ付いてるよ」

「うっわ。縁起でもな。それにそれは怖いからやめて」

 真顔で断りを入れてくる彼女の顔と反応が面白い。

「冗談だよ。でもね、未來には幸せになってほしいと思っているよ」

「急に湿っぽくなるね。やめてよ。私が描く未来には、いつまでも希空が隣にいるんだから。お酒を一緒に飲んで、結婚して、子供を産んで、私たちと同様に子供たちにも親友になってもらう。それが、私の理想の未来。歳とって姿が変わっても笑い合っていられる関係でずっといようよ。だから幸せは私だけのものじゃない。希空や太陽くんにもちゃんと分け与えられているの。だから、生きて。来年も再来年も生きてね」

「ありがとう、未来」

「さ、おうちに帰ろうよ。ちなみに黙ってたけど、今日の夕食は私の家で希空のパパママとうちの家族で焼肉だから」

「えー! 本当に! すぐ帰ろう!」

 走り出す私の後を未來が追いかけてくる。離れては近づきを繰り返し、夜の住宅街を駆け抜けていった。

 どこかの家庭のカレーの匂いにお腹を空かせながら、家々から溢れ出す黄色の光を頼りに私たちは家へと一直線に走る。