「ねぇ、あーちゃん。ここわからないよ〜」

「ん?ってまた数学か」

「希空が分からないのは、数学だけですよ。朱美先生」

 テスト直前ということもあり、今日の放課後はあーちゃんと未來と3人で保健室でテスト勉強中。

 私と未來がテスト勉強をしている傍らで、あーちゃんはまた難しそうな分厚い本を読んでいる。

 彼女曰く、小説らしいがこんな分厚い小説を私は見たことがない。

「教えてよ〜、あーちゃん」

「え、やだよ」

「なんでよ〜」

「だって、未來ちゃん数学だけは得意じゃない。未來ちゃんに教えてもらいなよ」

「ちょっと朱美先生、数学だけってひどいですよ!」

 いつの間にか仲良くなった2人。時々こうして3人で話す機会が増えたからか、ここで3人で話す空間が私は好き。

「じゃあ、他の教科は大丈夫なんだね?」

「うぅぅ。希空がいるので、大丈夫です」

「えー! 私を巻き込まないでよ!未來、数学以外は致命的なんだから、いくら時間があっても足りないよ」

「そんなこと言わないでよ〜。親友でしょ〜」

 泣きついてくる彼女の顔を手で制す。どうやら、今回のテストで赤点をひとつでも取ったら、お小遣いを減らすと言われたらしい。

 数学以外が、ほとんど赤点に近い彼女にとっては絶望的だろう。逆に数学だけ毎回満点なのが、意味不明すぎる。

 数学の何がいいのか分からない私からすると、彼女らの頭の中はどうなっているのか気になるところ。

「こういう時だけ、親友を安く使うな〜!」

「希空の鬼〜! 親友のヘルプを見捨てるなんて!」

 隣では、本で顔を隠しチラッと上から顔を覗かせているあーちゃん。その顔は笑みが溢れてしまうくらいの満面の笑顔。

 腹が立つが、そもそも今は放課後なので、あーちゃんが私たちに勉強を教える必要はない。

 そもそも意地悪なあーちゃんは、こういう時絶対に助けてはくれないとわかっているので、期待するだけ無駄。

「もうわかったよ! 帰りアイス奢ってよね!」

「希空様〜! もうなんでも買わせていただきます!」

 またしても鼻水が垂れている顔をくっつけてこようとしたので、私の制服につく前に手で顔を抑える。

 笑っているのだか、泣いているのか分からない顔に苛立ちも自然と収まる。

 そんな私たちを眺めているあーちゃんの顔は、どことなく母親みたいな優しい顔だった。