病院に着いたのは、時計がもうすぐで17時を迎える頃だった。
毎日通っていることもあって、今では看護師さんたちにも顔だけではなく名前も覚えてもらった。
「ガラスのシンデレラ」というあだ名ともさよなら。たまにイジられたりもするが...
受付でいちいち用件を話さなくていいのは、楽でいいものだ。これも全て立花先生のおかげなのだが。
本当に先生には、お世話になってばかりで申し訳なさばかりが募る一方。
「太陽、入るよ〜」
今日も相変わらず、部屋のカーテンは締め切られたまま。初めは病んでいて、暗いところに閉じこもっていたいのかと思っていたが、実は私のためだったということを最近知った。
屋内でも油断できない私の病気を思って、部屋のカーテンを閉め切っているのだと。
自分の体のことで悩んでいるのに、私のことまで考えてくれている彼は本当に優しい人だ。それをあえて口に出さずにいてくれたところも。
私がここに初めて訪れた日もカーテンは閉まっていた。私が来るとは、誰も知らないはずなのに。
そのことを問い詰めたら彼は最初は話したがっていなかったが、観念したのか話してくれたんだ。
私が来てくれる事を密かに願って、カーテンを閉め切って待っていたらしい。
私はさらに太陽のことが好きになった。彼の弱さと向き合うたび、今まで知り得なかった彼のことをもっと深く知ることができることが嬉しい。
「待ってたよ、希空」
最近では、素直に私に甘えるようになってきた太陽が愛おしい。
「今日の体調はどう?」
「普段通りだよ。体は17歳のままだから、特に不自由もないしね」
「それはよかった。にしても体だけは17歳のままってなんか不思議だね」
「だよね。見た目だけ年老いていくなんて普通に考えたら、あり得ないからね。体も老いていくならまだわかるけど。そういうところが世界的に見ても奇病に当たるんだろうね」
私たちを隔てるカーテンが、彼の吐息がぶつかって優しく揺れる。
この一枚のカーテンの奥にいる彼は、今何をして私と話しているのだろうか。優しい顔をしているんだろうか。
気になりだすと止まらない私の妄想。
体を動かすたびに軋むベッドの音が、彼がそこにいる安心感を与えてくれる。
こんな些細なことでも、私には幸せなのだ。
「もうすぐ冬だね」
「そうだね。希空って冬が1番好きそうな顔してる・・・」
「何それどういうこと!」
訳わからぬ彼の発言につい声を出して笑ってしまう。この病室に私と彼以外は誰もいないので、今だけは許してほしい。
「んー、なんでだろう。なんか好きそう。雪降る地面を歩っている姿が、似合ってるっていうか。それに肌が白いから、雪に映えそうだしね」
「確かにそれはあるかも」
「希空の顔の話をしてたら、希空の顔が見たくなってきちゃった。ダメなのに・・・」
「私はいいんだけどね! ほら、見てよ私の顔を!」
「意地悪・・・いつからそんな子になっちゃったんだよ〜」
「これが本来の私だよ!太陽が取り戻させてくれたんだよ」
初めてここに訪れた日から、もう両手では数えきれないほどここに顔を出している。
それでも、彼が目の前にあるカーテンを捲ることは一度もなかった。
たった一枚の布切れが、私たちの壁として聳え立っていたんだ。
毎日通っていることもあって、今では看護師さんたちにも顔だけではなく名前も覚えてもらった。
「ガラスのシンデレラ」というあだ名ともさよなら。たまにイジられたりもするが...
受付でいちいち用件を話さなくていいのは、楽でいいものだ。これも全て立花先生のおかげなのだが。
本当に先生には、お世話になってばかりで申し訳なさばかりが募る一方。
「太陽、入るよ〜」
今日も相変わらず、部屋のカーテンは締め切られたまま。初めは病んでいて、暗いところに閉じこもっていたいのかと思っていたが、実は私のためだったということを最近知った。
屋内でも油断できない私の病気を思って、部屋のカーテンを閉め切っているのだと。
自分の体のことで悩んでいるのに、私のことまで考えてくれている彼は本当に優しい人だ。それをあえて口に出さずにいてくれたところも。
私がここに初めて訪れた日もカーテンは閉まっていた。私が来るとは、誰も知らないはずなのに。
そのことを問い詰めたら彼は最初は話したがっていなかったが、観念したのか話してくれたんだ。
私が来てくれる事を密かに願って、カーテンを閉め切って待っていたらしい。
私はさらに太陽のことが好きになった。彼の弱さと向き合うたび、今まで知り得なかった彼のことをもっと深く知ることができることが嬉しい。
「待ってたよ、希空」
最近では、素直に私に甘えるようになってきた太陽が愛おしい。
「今日の体調はどう?」
「普段通りだよ。体は17歳のままだから、特に不自由もないしね」
「それはよかった。にしても体だけは17歳のままってなんか不思議だね」
「だよね。見た目だけ年老いていくなんて普通に考えたら、あり得ないからね。体も老いていくならまだわかるけど。そういうところが世界的に見ても奇病に当たるんだろうね」
私たちを隔てるカーテンが、彼の吐息がぶつかって優しく揺れる。
この一枚のカーテンの奥にいる彼は、今何をして私と話しているのだろうか。優しい顔をしているんだろうか。
気になりだすと止まらない私の妄想。
体を動かすたびに軋むベッドの音が、彼がそこにいる安心感を与えてくれる。
こんな些細なことでも、私には幸せなのだ。
「もうすぐ冬だね」
「そうだね。希空って冬が1番好きそうな顔してる・・・」
「何それどういうこと!」
訳わからぬ彼の発言につい声を出して笑ってしまう。この病室に私と彼以外は誰もいないので、今だけは許してほしい。
「んー、なんでだろう。なんか好きそう。雪降る地面を歩っている姿が、似合ってるっていうか。それに肌が白いから、雪に映えそうだしね」
「確かにそれはあるかも」
「希空の顔の話をしてたら、希空の顔が見たくなってきちゃった。ダメなのに・・・」
「私はいいんだけどね! ほら、見てよ私の顔を!」
「意地悪・・・いつからそんな子になっちゃったんだよ〜」
「これが本来の私だよ!太陽が取り戻させてくれたんだよ」
初めてここに訪れた日から、もう両手では数えきれないほどここに顔を出している。
それでも、彼が目の前にあるカーテンを捲ることは一度もなかった。
たった一枚の布切れが、私たちの壁として聳え立っていたんだ。