病室のドアをノックすると、中から『どうぞ』と抑揚のない声が私の耳を震わす。
太陽の声色。でも、全然太陽を感じることができない別人のよう。
「太陽、入るね」
ゆっくりと重い扉を両手で開いていく。それほど、重くはないのだろうけれど、今の私には重く感じられた。
中から伝わってくる空気感が、重かったからなのかもしれない。
「太陽?」
部屋のカーテンが閉め切られているのか、部屋に灯りが差し込んでいることも人工的な光が輝いているわけでもない。
真っ暗ではないが、薄暗い少し気味の悪い部屋。
「なんで来たの。僕は、もう会いたくなかった」
ベッドの上にいるのだろう。そこから声だけ聞こえてくるが、姿は見えない。ベッドの周りに取り付けられているカーテンみたいなものが彼と私を遮っている。
「太陽・・・私は諦めないよ。何度拒まれても傷ついても必ず会いにくる。だって太陽の言葉には、本音が詰まっていないから」
クッと喉を鳴らす音が聞こえる。苦しんでいる声。
「やめろよ・・・僕の気持ちを分かったようなことを・・・言うなよ」
ズキッと心に刺さる。痛い。痛いけど、ここで挫けてはいけない。
途切れ途切れに発せられる太陽の言葉。力がこもっていないので、病室のエアコンの音に飲み込まれて消えてしまいそう。
「私にもその痛み分けてよ。私たちは似たもの同士なんだよ」
「だめだ。希空だけには絶対に・・・」
「どうして・・・」
彼のベッドに1歩歩みを進める。キュッと鳴る音に反応したのか、ベッドが軽く軋む。
「それ以上近づかないでくれ!頼む。お願いだよ希空」
今までで1番弱々しい声が、広い病室に囁かれる。
「太陽・・・カーテン開けてもいい?」
「それだけは絶対にやめてくれ」
「じゃあ、私の話をちゃんと聞いて。そして、太陽の抱えてる苦しさを私にも共有して。人間は、1人で生きていくことなんてできない生き物なんだよ。私はあなたに出会ってそれを強く意識させられた。だから今度は、私があなたに寄り添う番」
薄っぺらい透けないカーテン越しに、彼が啜り泣く声が聞こえてくる。
苦しんでいる彼を助けてあげたい。焦らず、少しずつでいいから。
「ごめん。ひどいことばかり言ってほんとごめん。希空に離れてほしくて言いたくもない言葉を言い続けて、正直苦しかった」
「何があったの?」
「病気・・・病気が著しい速度で進行しているんだ」
彼の悲痛な叫びが言葉以外からも伝わってくる。空気感がピリついている感じ、彼がカーテンの奥で喉を唸らす音。
「ど、どんなふうに?」
聞かずにはいられなかった。彼があとどのくらい...
「僕・・・もう見た目が40代くらいなんだ・・・笑えるよね。だから、希空には今の自分を見せることができない。怖いんだ。この姿を見られて希空に嫌われてしまうかもしれないというのが」
私が思っていた言葉とは違う言葉が返ってきて絶句する。
「そ、そんな。私は太陽がどんな姿でも・・・」
「わかってる。希空がそう言ってくれることくらいわかってるんだ。でも、僕が・・・僕自身が認められないんだ。昨日まで高校生だったのに、倒れて目が覚めたら手に皺が現れて、髪も抜け落ちて。今日起きたら、もうすっかり別人になってしまっていたんだ。最初は、未来に来たのかと思ったよ。でも、携帯の画面は正直だった。認めたくなかったよ、苦しかったし、怖くて誰とも会いたくなかった。お見舞いに来てくれた両親にすら、顔を見せることができなかった。辛いよ・・・」
「太陽・・・」
「こんな僕でも希空は僕のことを支えてくれる?好きでいてくれる?」
言葉を選んで話しているような彼。彼の痛み、苦しさ、怖さが声の震えようから鮮明に伝わってくる。
「太陽が私の立場だったら、好きじゃなくなったりする?私のこと」
「絶対にならない・・・」
「それが私の答えだよ。私は、太陽じゃないとダメなの。代わりは存在しないの。だってね、私の世界を変えてくれたのは・・・夜瀬太陽たった1人なんだから」」
カーテン越しに聞こえる彼の寂しげに泣く音だけが、私と彼だけの空間に響き渡る。
その鳴き声に釣られて私の頬もじっとりと濡れていた。
太陽の声色。でも、全然太陽を感じることができない別人のよう。
「太陽、入るね」
ゆっくりと重い扉を両手で開いていく。それほど、重くはないのだろうけれど、今の私には重く感じられた。
中から伝わってくる空気感が、重かったからなのかもしれない。
「太陽?」
部屋のカーテンが閉め切られているのか、部屋に灯りが差し込んでいることも人工的な光が輝いているわけでもない。
真っ暗ではないが、薄暗い少し気味の悪い部屋。
「なんで来たの。僕は、もう会いたくなかった」
ベッドの上にいるのだろう。そこから声だけ聞こえてくるが、姿は見えない。ベッドの周りに取り付けられているカーテンみたいなものが彼と私を遮っている。
「太陽・・・私は諦めないよ。何度拒まれても傷ついても必ず会いにくる。だって太陽の言葉には、本音が詰まっていないから」
クッと喉を鳴らす音が聞こえる。苦しんでいる声。
「やめろよ・・・僕の気持ちを分かったようなことを・・・言うなよ」
ズキッと心に刺さる。痛い。痛いけど、ここで挫けてはいけない。
途切れ途切れに発せられる太陽の言葉。力がこもっていないので、病室のエアコンの音に飲み込まれて消えてしまいそう。
「私にもその痛み分けてよ。私たちは似たもの同士なんだよ」
「だめだ。希空だけには絶対に・・・」
「どうして・・・」
彼のベッドに1歩歩みを進める。キュッと鳴る音に反応したのか、ベッドが軽く軋む。
「それ以上近づかないでくれ!頼む。お願いだよ希空」
今までで1番弱々しい声が、広い病室に囁かれる。
「太陽・・・カーテン開けてもいい?」
「それだけは絶対にやめてくれ」
「じゃあ、私の話をちゃんと聞いて。そして、太陽の抱えてる苦しさを私にも共有して。人間は、1人で生きていくことなんてできない生き物なんだよ。私はあなたに出会ってそれを強く意識させられた。だから今度は、私があなたに寄り添う番」
薄っぺらい透けないカーテン越しに、彼が啜り泣く声が聞こえてくる。
苦しんでいる彼を助けてあげたい。焦らず、少しずつでいいから。
「ごめん。ひどいことばかり言ってほんとごめん。希空に離れてほしくて言いたくもない言葉を言い続けて、正直苦しかった」
「何があったの?」
「病気・・・病気が著しい速度で進行しているんだ」
彼の悲痛な叫びが言葉以外からも伝わってくる。空気感がピリついている感じ、彼がカーテンの奥で喉を唸らす音。
「ど、どんなふうに?」
聞かずにはいられなかった。彼があとどのくらい...
「僕・・・もう見た目が40代くらいなんだ・・・笑えるよね。だから、希空には今の自分を見せることができない。怖いんだ。この姿を見られて希空に嫌われてしまうかもしれないというのが」
私が思っていた言葉とは違う言葉が返ってきて絶句する。
「そ、そんな。私は太陽がどんな姿でも・・・」
「わかってる。希空がそう言ってくれることくらいわかってるんだ。でも、僕が・・・僕自身が認められないんだ。昨日まで高校生だったのに、倒れて目が覚めたら手に皺が現れて、髪も抜け落ちて。今日起きたら、もうすっかり別人になってしまっていたんだ。最初は、未来に来たのかと思ったよ。でも、携帯の画面は正直だった。認めたくなかったよ、苦しかったし、怖くて誰とも会いたくなかった。お見舞いに来てくれた両親にすら、顔を見せることができなかった。辛いよ・・・」
「太陽・・・」
「こんな僕でも希空は僕のことを支えてくれる?好きでいてくれる?」
言葉を選んで話しているような彼。彼の痛み、苦しさ、怖さが声の震えようから鮮明に伝わってくる。
「太陽が私の立場だったら、好きじゃなくなったりする?私のこと」
「絶対にならない・・・」
「それが私の答えだよ。私は、太陽じゃないとダメなの。代わりは存在しないの。だってね、私の世界を変えてくれたのは・・・夜瀬太陽たった1人なんだから」」
カーテン越しに聞こえる彼の寂しげに泣く音だけが、私と彼だけの空間に響き渡る。
その鳴き声に釣られて私の頬もじっとりと濡れていた。