泣きながらも焦らず119番に通報できたことで、無事に数分のうちに私たちの元へ一台の救急車が到着した。

 コスモス畑を救急隊員が走っている姿は、非現実的にも見えてしまう。

 倒れた彼をストレッチャーに乗せる隊員の方々の背中を眺めることしかできない無力な私。

 涙で頬を濡らし、私の視界はぼやけた世界が広がっている。

 太陽がこの世をさってしまうかもしれない恐怖と、1人残されてしまう不安に襲われる。

 徐々に呼吸が乱れ始め、心臓の鼓動が乱れてしまう。

 隊員さんが何かを話しかけているが、何も聞こえない。聞こえるのは、自分の呼吸している音と心臓のやけに細やかな鼓動する音だけ。

 何もない。残っているのは、太陽が急に倒れてしまったという現実だけ。

 頭ではわかっている。深呼吸をして落ち着かないといけないことくらい。

 でも、体が言うことを聞いてくれない。むしろ、どんどん私を追い込んでいく。

 完全にパニック状態へと陥ってしまっていた。

 隊員さんが私の方へと駆け寄って、私の肩に触れるが、体が反応してくれない。

「・・・聞こえ・・・大丈・・・」

 断片的に聞こえる男性の低い声。私の耳に残ることなく、静まり返った夜へと溶け込んでいく。

「あっ・・・」

 綺麗な白い道が視界に広がる。私の意識が遠のいていく。

(あぁ、怖い。死ぬ時ってこんな感じなのかな。もう少し、太陽と笑っていたかったな)

 私の意識はここで途絶えた。

 人工的なライトが無常にも私の背中を照らし続け、まるで空から天使が降りて私を天国へと連れていくかのような光景だった。

 楽しかった行きの電車とは裏腹に、帰りは救急車のサイレンに乗せられて病院へと向かう。

 サイレンに紛れて、鈴虫が鳴く音が誰もいないコスモス畑には響いていた。