駅からさらに10分ほど歩いて、目的地へと到着した。

 私たちの進むべき道を示しているかのように咲いているコスモス。

 ピンク、白、赤、黄色。そして、黒色のコスモス。黒のコスモスを見るのは、これで2回目。

 あまり記憶にはないが、初めて見たのは私が幼稚園の時だった気がする。

 幼稚園の頃に私は家族とこの場所に来たことがあったんだ。ついこの間、自分の部屋を掃除していた時に、ここで家族3人で撮った写真がたまたま見つかった。

 写真を見ているうちに懐かしくなり、ここをもう一度訪れたくなったというわけ。

 一直線に丘の上へと伸びている舗装された道の周りには、色が統一されて咲いているコスモスたち。

 どうやら、最初はピンク色のコスモスゾーンらしい。

「すごいね。綺麗だ・・・久々に見た気がするよ」

「私もここに来たのは、10年ぶりくらい。綺麗でしょ!」

「あぁ・・・とても綺麗だよ」

 何かを思い出しているのだろうか。太陽の目線は、コスモスに向けられているのではなく別の場所を見ている。

 そこに何かがあるかのように。

「ここで問題です!」

「ん?」

「難しいけど、よく考えてね」

 難しいというのは、強ち間違ってはいないが、これから出す問題は考えても正解することはない。

 事前に知っていなければ、答えることができない意地悪問題。

「うん」

「コスモスの和名はなん・・・」

秋桜(あきざくら)

「え、なんで知ってるの」

 動揺のあまり、私の顔から笑みが消えてしまった。

 まさか、彼が知っているとは思わなかったから。

「んー、コスモスがずっと好きだったからかな。思い出があるんだ。昔ここで、僕落とし物をしたことがあってね。その時一緒に落とし物を探してくれた人が、僕に一輪の黄色のコスモスをくれてこう言ったんだ。『一目惚れしちゃった。好き!』ってね」

 なんて可愛らしい女の子なんだろうか。私なんて17年生きてきたが、一目惚れなんてしたことはないぞ。

 記憶にある範囲内では...

 大好きな人が目の前にいることに変わりはないが。

「素敵な話だね」

「うん。だから僕は、コスモスが1番好きな花なんだ。その子のおかげでね。あの時どれだけ僕の心が救われたか、多分彼女は理解していなかったと思うけど、僕にとっては忘れられない思い出になったんだ」

「なんか涙出そう。その子とはどうなったの?」

 顔色を曇らせる彼。

「それ以来・・・多分もう忘れちゃってるよ。ずっと昔の話だからね。僕も断片的な記憶しかないから。でもね、これだけは言える。あれは僕にとって『初恋』そのものだった」

「そうなんだ。今でもその子に会えるなら会いたいと思う?」

「ううん。今は思わないよ。僕の隣には、もう大切な人がいるから。それにその子もきっと幸せなはずだから・・・」

「私も同じだよ。ま、初恋なんて私は覚えてすらいないけどね」

 秋桜...秋に咲く、桜のようなピンク色の花だから名付けられた秋の花。

 私の大好きな花。そして、彼の好きな花でもある秋桜。また、一つ太陽との共通点が見つかったのが嬉しい。