「はぁ〜。たくさん食べたね」

「うん。食べたけど、なんか物凄く悲しいんだけど」

「どうして?」

「ど、どうしてって・・・希空って結構鬼なんだね」

「そうかな〜?」

「それにしても、希空。そのお腹どうしたの!」

 下を向くと、いつものように靴のつま先を直視することができない。

 その度にまた食べすぎてしまったと反省するも毎回忘れてしまう。

 人の欲望は簡単に打ち勝つことはできないのだろう。三代欲求なら尚更のこと。

「私、胃下垂だから食べすぎるとこうなっちゃうの」

「そ、そうなんだ。初めて見たかも。すぐに歩いて大丈夫なの?」

「うん。大丈夫だよ。そのうち勝手に萎んでいくから」

「そっか。よかった」

「この後って時間ある?」

「あるけど、行きたいところでもあるの?」

「うん。少し帰るの遅くなるけど大丈夫?」

「大丈夫だよ。両親は僕の余命がわかった時、残りの人生は好きなように生きるよう言ってくれたから門限はないよ」

「あ、私とおんなじだね。じゃ、早速行こう!」

「ちなみにどこに?」

「それはついてからのお楽しみ〜!」

 駅に向かって再び歩いていく私たちの背中を太陽が、頭上からちょっとずれた角度から照らす。

 1番日中で暑い時間。日傘をさしている分、私は彼に比べるといくらかは涼しいが、彼は太陽が好きなので問題はないだろう。

 駅の構内で目的地へ向かうための切符を購入する。今日1日で結構お金を使ったが、今まで貯めてきたお年玉がたくさんあるので、ちっとも痛くない。

 それに、今使っておかないと勿体無い気がする。

「14時46分発だって」

「14時46分発・・・ってもうすぐ出発じゃん!」

「だね、急ごっか」

「いや、急がないと乗り過ごすよ。次は・・・15時24分だし。急ごう」

 駅の構内なので光は届かない。日傘を閉じて、彼と走って電車へと向かう。

 急がないといけないはずなのに、この状況を楽しんでいる私がいる。

 階段を1段飛ばしで降りていくのが、危ないことだとはわかっているけれど、今は楽しくてそんなことすら忘れる。

 私の前を駆け降りている彼から、洗濯物を天日干しした太陽の匂いがほんのりと香る。

 お日様に照らされたベッドのシーツの温かな優しい匂いが脳内をよぎる。

「あと、2分あるから間に合うよ!」

「でも、急ごう。絶対に乗り過ごしたくないし」

 先に彼が階段を駆け下り、駅のホームへと足が着く。

「ほら、希空早くおいで」

「うん!」

 手を伸ばして待っている彼の体に飛び込むように、私は残り2段ある階段をジャンプして宙を舞った。