映画館を出て数分が経過した。映画館に入る前に比べて天気はすっかり曇り空へと変貌してしまったらしい。

 私の命を奪う、彼の命を守る太陽が雲に隠れてしまう。本当に皮肉な話だ。

 駅前は人混みで溢れかえっている。晴れていようが、曇っていようが、天気は関係ないらしい。

 そんな当たり前のことでさえ、私はつい羨ましく感じてしまうのが嫌で仕方がない。

 そこら辺を歩いている他人も、きっと何かしらの悩みを抱えているのだろうから。

 もしかしたら、私よりももっと不幸な人だっているかもしれないし。

 そう簡単には見つからないとは思うけれど...

 某有名チェーン店やお洒落な意識高め系な人が好んで入りそうな店が、駅前にはずらりと並んでいる。

 映画館に行く途中に見た大型商業施設の建設も着々と進めれている模様。

 ヘルメットを被った男の方達が、高い場所で鉄骨やら何かを慎重に動かしているのが肉眼でも見てとれる。

 噂によると、この大型商業施設は日本一大きい商業施設になるらしい。

 今の日本一がどこにあるかは全くわからないが、日本一が身近にできるとなると、それだけで心が弾む。

 なんとしてでも生き延びないといけないという使命感に襲われているみたいだ。

 6車線並んでいる道路沿いの歩道を2人で歩く。走っている車の数が、私たちが住んでいる地域とは比にならない。

 私たちの地域はせいぜい2車線。4車線はちょっと車で走らないとなかったはず。

 心なしか、肺に取り込む空気がちょっとだけ澱んでいる気がする。たぶん、光景に圧倒されてそう思っているだけに違いないが。

 駅前よりも栄えているのか、道路沿いに並ぶ店の数が格段に増えた。どれもお洒落なお店ばかり。

 店内からキラキラとしたオーラが、溢れ出しているくらい魅力的すぎる。

「ねぇ! ここに入ろうよ!」

 私が見つけたのは、洋風のレストラン。それも鳥料理専門の。

「え、希空。さっきの話マジだったの?」

「うん。今、チキンが食べたい!」

「・・・僕、食べてる途中に泣いたらごめんね」

「そしたら、黙って席を立って帰るよ」

「え、お、おい!」

 彼が何かを話す前に手を引っ張り店内へと連れ込んでいく。もちろん、今から私たちが食べるのは鳥料理。

 みんなが水族館に行った後に、回転寿司に行って寿司を食べたくなるような気分と同じ。

 ま、私の周りにそんな人はなかなかいないけれど。もしかして、私が変なのかな?

 彼といることで私の常識感もバグってきたのかもしれない。