ー事の発端は、今から遡ること1年前の7月13日。
 
 「おはよう、希空(のあ)

 「はよ〜。あれ、未來(みく)は今日、珍しく時間通りなんだね」

 「何その言い方。私がいつも遅刻してるみたいな言い方は!」

 「本当のことじゃん。逆に遅刻しない方が珍しくない?」

 「き、気のせいでしょ!さ、いこいこ学校に遅れるよ」

 「全くどの口が言ってるんだか」

 何も変わらない普段通りの1日。登校途中にすれ違う人たちの顔にも、幸せが満ちているように見える。

 この頃の私は、自分からしても周りから見ても、活発な明るく元気な女の子に映っていただろう。

 数時間後には、別人に変わり果てるなんて予想もしていなかった。事前に知っていたとしても、今の自分に辿り着いてしまうに違いないが...

 異変が起きたのは、確か学校に到着した頃。

 「希空、なんか今日肌赤くない?」

 この言葉が始まりだった。

 「えー、そう? 気のせいじゃない?」

 私の親友で3歳の時から共に育ってきた小川未來(おがわみく)。私のことをなんでも知っていて、信頼できる友達というよりも感覚的には長年寄り添ってきた家族に近い。

 幼稚園、小学校、中学校。そして高校とかれこれ10何年も共に成長を重ねてきた。

 人には誰にも話せない秘密や悩みが、ひとつはあるというが私たちの間にそんなものは存在しない。

 良く言えば、なんでも知っている間柄。悪く言えば、プライバシーが存在しない。

 未來の元カレのことや黒歴史も全て知っている。ま、未來も私のを知ってはいるが...

 私は幼少期から肌が白かった。他の子と比べてみても比にならないくらいの白さ。女性なら誰もが憧れる美白を私は手にしていたんだ。

 だからこそ、日焼けしたのが、赤く見えてしまうのだろう。その程度だと思っていた。

 永遠にも感じられる退屈な授業を窓枠に切り取られた景色を見て気を紛らす。

 天才というわけではないが、勉強は嫌いではないので既に高校1年生の授業内容を習得している身からすると、授業は残念ながら退屈なものへと変貌してしまうらしい。

 初めの頃は、他人に教えてあげられる優越感があったが、それもすぐに飽きてしまった。どうせ、同じ時間を過ごすなら違った使い方をしたい。

 結局、授業をサボってまでしたいことは見つかることなく、この日もただ景色を眺めていた。

 海のような深い青い空を飛び回る鳥たちを見ては、強い憧れが胸を震わす。

 (私もいつか・・・あの空を自由に飛んでみたい)

 一面青に染まった空を一機の飛行機が、空を二分に割るようにどこか目的の場所を目指して飛んでいく。

「綺麗な空・・・」

 この時、私は先生に授業の内容を指名されていることに全く気が付いていなかった。