「そ、そんな。あ、あと余命1年もないの」

「そうだね。あと1年もないや。本当は、希空だけには病気のことを話したくなかった。君に辛い思いをさせたくはなかったから。君を残してこの世を去ることになることだけが、僕にとって悔いの残るものになると思っていた」

 自然と私の頬は濡れていた。唇に触れる涙がほんのりとしょっぱい。

「どうして、話してくれたの・・・」

「それは、君が僕と似たものだったと知ってしまったから」

「やっぱり知っていたんだね。私の病気のこと」

「うん。先生からも聞いたことがあったんだ。僕の病気は世界的に見ても稀な病だから。ちなみに僕の病気の名前は『夜光進行病(やっこうしんこうびょう)。この病気には対照的な病がひとつだけあると。そして、その病も発症すると長くは生きられない。一生日光を避けて生き続けなければならない」

「うん」

「だから、あの日。希空と出会った日、僕は確信したんだ。カーテンで囲まれた保健室にいる君。廊下でも日傘をさす君を見て、希空は『日光乾皮症』なんだって」

 運命なのだろうか。世界的にも稀な病に悩まされる2人の高校生。

 夢や希望が詰まっている時期なのにもかかわらず、私たちにそんな輝かしい未来が訪れることはない。

「太陽の言うとおり、私は『日光乾皮症』を患っているよ。そして、寿命はもう1年もない。太陽と同じだね」

 こんなことで太陽と同じになんてなりたくなかった。せめて太陽は救いの可能性のある病気であってほしかった。100%の確率で亡くなってしまう難病ではなく。

 もっと言ってしまえば、太陽だけは健康体な体の持ち主であってほしかった。

 いつまでもいつまでも健康に過ごして、好きな人と出会って、いつかは結婚をしてほしかった。そして、たまにでいいから私のことを思い出してほしかった。

 でも、それすら叶わないなんて...

「僕たちは巡り巡って出会う運命だったのかもね」

「そうだとしたら、だいぶ悲しくて切ない運命だね」

 2人の声色が静けさを纏う夜へと溶け込んでいく。

 太陽は涙の一滴すら流さず、公園の闇を眺めている。その横顔が、やけに寂しげに見えてしまう。

「あのさ、希空」

「なに?」

「残りの人生さ、僕の隣に・・・側にいてくれないかな?」

「え、それって・・・」

「うん。残りの数ヶ月間、僕の彼女になってほしい。僕は、希空のことが好きなんだ。ずっ・・・」

 ボソッと呟かれた、その後の太陽の言葉は聞き取れなかった。

 まさか、太陽が私のことを好きだなんて思ってもいなかった。

 私の叶わない、告げられない想いが、彼の方から告げられるとは夢のよう。

 もちろん返事は決まっている。もし、彼が健康体であれば、断っていたかもしれない。いや、どうだろう。それはないかも。

 彼の目を見つめる。今にも、消えてしまいそうな目。たぶん、私も今は彼と同じ目をしているに違いない。

 1度夏の空気を肺へと取り込む。冬の空気とは違い、肺が綺麗に満たされるわけではないが、自然と気持ちは落ち着く。

「私も好き。いつまで生きられるかわからないけれど、残りの人生私と生きてほしいです」

 言い切った...胸に抱えていた想いを言えたことで、胸の奥に潜んでいた霧が消えた気がする。

「希空、残りの人生呆れるくらい楽しもうね。それと、2人でこの大きな空を飛ぼうよ」

 私が残りの人生でしたかった夢。叶わないと勝手に思い込んでいた夢。それを彼は実現させてくれようとしている。どんな形で実現されるかはわからないが、彼とならなんだってできる気がしたんだ。

「うん。絶対に飛ぼうね」

 私たちを囲む周囲の景色は夜に包まれ、辺りは暗さを増していたが、私たちの心の中だけは夢と希望に満ちた輝きで埋め尽くされていた。