ひと通り今日の太陽との出会い、そして先ほどのコンビニからの帰りのことを全て包み隠さずに話した。

 終始目を輝かせ、時折「うんうん」と相槌を打ってくれるのは、シンプルに嬉しいものだ。

「・・・って感じなんだ」

「なるほどね・・・色々気になったけど、1番気になるのはやっぱり、夜瀬くんも希空と同じって言ってたところだね」

「そうなんだよね。どんな意味で言ったのかはわからないけど、とても辛そうだった」

「日曜日まで待つしかないね。彼が話してくれるのなら、希空も覚悟を決めないとね」

「うん・・・」

 正直不安で胸がいっぱい。残り1年も生きられないと聞いたら、彼はどんな表情を浮かべるのだろう。

 悲しみ。憐れみ。驚き。

 どれもが、彼の顔にはピンとこない。きっと彼なら、普通の人とは違った反応をするだろうという、謎の期待感が私の中では高まりつつある。

 楽しみではあるが、人に話すのはやはり怖い。

 私が、この世を去った時に心を痛める人が単純に1人増えることになるから。

 関係が深くなればなるほど、その痛みは強さを増す。

 できるなら、話したくはない。でも、彼の抱えている悩みは知りたい。あわよくば、手助けできたらいいな。

「今年は希空と花火見れなくて、寂しいな。来年こそは一緒に見ようね」

 涙で潤っているように見える彼女の目。

 彼女も言葉には出さずとも、頭ではわかっているのだ。私と過ごす夏はこれで最後になるのだと。

 どんなに願っても、神様に願っても私に再び夏が訪れることはないだろう。

 このカラッとした、身体が汗ばむ夏を感じることができるのが、あと1ヶ月ちょっとで終わるのは名残惜しい。

 17年夏を経験してきたが、思い出として思い出せる夏はいくつあるかな。

 きっと右手に収まってしまうくらいにすぎない。

「来年は未來と花火見たいな」

「絶対だよ!絶対絶対一緒に花火見ようね」

「うん・・・必ず」

 できもしない約束をしてしまった。時には、優しい嘘も必要な場合もあるよね?

「ねぇ、希空。お風呂さ、久しぶりに一緒に入らない?」

「いいけど、珍しいね」

「なんか、お風呂に浸かりながらくだらない話をしたくなった」

「なんだそれ。でも、楽しそう」

「でしょ?」

「そうと決まれば、さっさと行きますか」

 鼻歌混じりに先に下の階へと降りてしまう彼女。その後を追う前に、開けていた窓を閉める。
 
 机に置かれたエアコンのリモコンで冷房26度に設定し、電源を入れる。

 部屋に充満していたはずの夏の空気が、エアコンの風によって消え去っている気がした。

 夏の空気が、人工的な冷たい空気に入れ替わるまで、時間はかからなかった。