「た、ただいま帰りました・・・」

 恐る恐る薄いドアから顔を覗かせながら開く。

 (どうか、未來が怒っていませんように)

 ドアを開け、仁王立ちしている彼女の顔を見て悟った。

 (あ、終わった)

 怒りに顔が満ちているではなく、興味津々な様子の彼女。何から聞こうかうずうずしているのが、言葉なしでも伝わってくる。

 怒っていなくて安心はしたが、これはこれで大変なことに変わりはなさそう。

「ただい・・・」

「ねぇねぇ、希空!」

 既に食い気味に私の顔に近寄ってくる未來。体感としては、近所のお節介なおばさんのようだ。

「いつから夜瀬くんとそんな感じになったの?」

「2人で何話したの?」

「てか、知り合いだったの〜?」

「連絡先は!?」

 止まることを知らないのか、数々の質問を浴びせてくる彼女。

 これが、俗に言うマシンガントークってやつなのか。本当に撃たれ続けているだけで、反撃する余地もない。

 30秒ほどでいくつの質問をされただろうか。私の頭は、質問を処理することができずにオーバーヒート中。

 ポカーンとしている私に、今でも話しかけ続けている未来もだいぶ変わっているやつなのかもしれない。

 普段は、こんなはずではないのに。どちらかと言うと、落ち着いたお姉さんタイプ。

 女子の恋愛トーク?とやらの凄まじさをまじまじと実感させられている気がする。

「ちょっと、未來落ち着いてよ」

 私の一言で、興奮していたことに気がついたのだろうか。

 あれだけ私に質問攻めしていた口が、一文字に塞がれる。

「ごめん」

 ボソッとつぶやいた三文字の言葉は、今にも夜に溶け込んでしまいそう。

「そこまで落ち込まないでよ。ちょっと詰められすぎてびっくりしただけだから」

「うん。ほんとごめん。希空の恋愛話が聞けるって思ったら、嬉しくて止まらなかった」

「いいよ。あのね、未來」

「ん?」

「ゆっくり話すから、私の話聞いてくれる?」

「うん! もちろん!!」

 やっぱり未來は可愛いな。とびっきりの笑顔が眩しい。夜の太陽とでも言えそうな輝き。
  
 もし、彼女が犬だったら間違いなく尻尾をぶんぶんと左右に振り回している姿が、容易に想像できる。

 犬だったら未來はなんだろう。

 チワワ? プードル? ポメラニアン? 
 
 出てくるものはどれも可愛いの種類の犬ばかり。

 意外とシベリアンハスキーとか?おっと、それは私が好きな犬だった。

 どの種類の犬にしても、未來が犬になったらベタ惚れすること間違いなしだが。
 
 家の外から虫たちのさざめきが聞こえる。今日も落ち着いた穏やかな夜が、深夜にむけて徐々に更けていく。

 日本全体から光がポツポツと消えゆく真夜中へ向けて、時間は止まることなく刻まれる続けるのだった。