あと少しで、私の家が見えてくるところで太陽がその場で足を止める。

 隣同士で歩いていたから、自然と私の足も止まり向き合う形になる私たち。

 狭い住宅街の一画の道路のど真ん中で見つめ合う私たち。通行人がいたら、不自然な目を向けられてしまうに違いない。

 夜ということもあり、人は誰ひとりいなかった。道路に映し出されているふたつの影だけが、街灯に照らされて浮き彫りになる。

「あのさ、希空」

「ん?」

「聞いていいかわからないけどさ」

「うん」

「希空も病気なんでしょ?」

「え・・・」

 突然すぎる展開に言葉が詰まってしまう。それに、『希空も』ということはやはり、太陽も。

「今は、話さなくていいよ。日曜日って暇?」

「うん。今のところは空いてるよ」

「じゃあさ、日曜日花火大会があるらしいから会えないかな?」

 そうだった。明後日は、この辺の地域で1番大きな花火大会が開催される日だった。ちょっと早めの夏の再来を祝う花火。
 
 1ヶ月間の長くも短い夏の始まりを祝うための花火大会。

「いいよ。でも、私でいいの?」

「希空じゃないと意味ないんだけど。その時に、僕の話を聞いてほしい。そして、良ければ希空のことも聞かせてほしい」

「・・・・・」

 言葉が詰まってしまい、すぐに返答することができない。

「無理にとは・・・」

「わかった。その代わり、誰にも話さないでほしい。これだけは約束して」

「あぁ、必ず約束する。もし、破ったら針千本飲ませてくれ」

「千本じゃ足りないね。一万とかかな」

「うっわ。希空、鬼だわ」

 微笑む彼の横顔を差し込むように街灯の光が照らす。

 まるで、劇でスポットライトを浴びるように受けている主人公のように。

 私はそんな彼の顔から目を一瞬たりとも、離すことができなかった。

 もしかしたら、私はこの時から彼に好意を持っていたのかもしれない。

 出会って1日にも満たない不思議な彼に恋をしたのは、あと1年も生きることができない太陽に嫌われた少女だった。