あの丘で、恋の終わりと思い出を風に乗せて

「ごめん、待たせて・・・」

「大丈夫だよ。実際5分もかかってなかったし」

 店の前で待っていた私に、私服姿の太陽が姿を現す。

 額にほんのり汗をかいている様子からして、急いで出てきてくれたのかもしれない。

「暑いな・・・」

「そうだね。夏だからね」

「これ・・・あげるよ」

 彼が手にしていたのは、缶のコーラ。彼の手から受け取ると、冷たさが肌で感じ取れる。

 さっきまでキンキンに冷やされていたのだろう。夏の外気に触れたことで、表面に水滴が浮かび上がる。

「ありがとう!」

「やっぱり、夏はコーラだよね。体の隅々までシュワッとした爽やかな感じが駆け巡るのが堪らない」

「わかる!体には良くないってわかるけど、この美味しさには勝てないよね」

「早く飲もうよ。飲みたくてうずうずしてきた」

 "カチャン"

 プルタブを左手の人差し指で開ける。甘い香りが、私の鼻を掠める。

「バイトお疲れ様!」

「ありがと。それじゃ、乾杯!」

「乾杯!」

 缶がぶつかり合い、中身が少しだけ地面へとこぼれ落ちる。アスファルトにできる数滴の黒い染み。

 ひんやりとした金属部分が私の唇に触れ、中からシュワッと弾ける液体が流れ込む。

 甘い。他のものに例えることができない味が口いっぱいに広がる。

 "シュワシュワシュワ"

 口から喉へと流れて行く間も絶えず鳴り続ける音。気持ちがいいくらい清々しい甘さ。

「ぷはぁ〜、バイト終わりのコーラうまいわ!」

 余程バイトで疲れていたのか、一気にコーラを飲み干してしまう彼。

 250mlといえど、コーラ一気飲みはなかなかハード。間違いなくお腹に...

「ゲフゥ」

 我慢できなかったのか、げっぷをしてしまっているではないか。

「ご、ごめん。品がないよな」

「いいよ。ちょっと堪えてる姿面白かったから」

「流石に女子の前ではしたくなかったんだけど、我慢できなかったや」

「ふーん。少しは常識あるんだね」

「え、僕って常識ないように見られてる?」

「うん」

「あ、電話かかってきた」

 ポケットから携帯を取り出し、電話に出るのかと思いきや、相手の名前を確認せずに着信を拒否する。

「え、え。なんで切ったの?」

 私ならきっと迷わずに、電話に出ていただろう。しっかり着信相手の名前も確認してから。

 それなのに彼は、名前を確認するどころか秒で切ってしまった。驚きのあまり固まってしまっている私に、彼は不思議がっている様子。

「なんでって意味がわからないんだけど・・・」

「え、普通電話に出ない?」

「んー、だって今は希空といるし」

「友達からの連絡だったらどうするの?」

「別にどうもしないよ。僕は、今この瞬間を大事にしたいから。目の前にいる人との時間を1秒でも無駄にしたくない」

 嬉しいようでなかなか複雑な回答。やはり、彼は常識人とはかけ離れた人物らしい。