「あーちゃん、また明日ね」

「気をつけて帰るんだよ」

「はーい。あーちゃんこそ、私のこと大好きじゃん!」

「まぁね。大事な教え子?だし」

 静かに保健室の扉を閉じる。閉じる最後の瞬間まで、あーちゃんが私のことを見守っているのが見えた。

 サラッと右目をウインクしているように見えたのは、気のせいだろうか。もし、事実だとしたらちょっと惚れてしまいそう。

 時刻は15時30分。まだまだ太陽は、空に昇ったまま地上を明るく照らしている時間。

 必然的に廊下には、太陽の光が綺麗に差し込み、廊下には窓枠の影が床に映し出されている。

 保健室を出る前にリュックから、取り出しておいた小さめの日傘を光が差し込む廊下で花咲くように開く。

 基本的に下校時は人の数が極端に少ないので、危険のない程度なら校内でも日傘をさすことを特別に許可されている。

 他の人からしたら異様かもしれないが、こうでもしないと命を守れることができないので仕方がない。

 そもそも放課後に保健室を訪れる人は、ほぼいないので私が歩く道はいつも私だけ。

「希空〜! 迎えにきたよ!早く帰ろ〜」

 廊下の奥の方で、大ぶりにこちらに手を振る未來。彼女の表情が恐ろしく眩しい。まるで、太陽がそこにあるかのよう。

「いつもありがとね」

 未來には聞こえない声で、囁いてみる。きっと彼女にこの声は届いてはいないだろう。

 面と向かって彼女に告げるには、少々気恥ずかしい。

「ねね、未來」

 今度は彼女に聞こえる声で、呼びかけてみる。

 私の声に釣られるように、こちらへと歩みを進めてくる彼女。

「な〜に?」

「今日さ、うちに泊まらない?」

「え! 本当に!? 泊まりたい!!」

「じゃあ、決まりね。明日土曜日だから、たまにはいいかなって思ってさ」

「めっちゃ楽しみなんだけど! 何しようかな〜、夜更かしは決定だね!」

 見るからに嬉しそうな未來を眺めているだけで、私も幸福感に包まれる。

 うん。今日は間違いなく寝ることはできないだろう。ま、たまにはそういう日もあってもいいのかもしれない。