「はーい、今日はおしまーい!」

 6時間目ののチャイムが鳴る5分前に、私とあーちゃんの個別授業は終了した。

 まだ他の生徒たちは、授業をしているのだと思うと少しだけ優越感を感じる。

「あー、もう数学やりたくないよ〜!」

「希空は数学苦手だもんね。何がそんなに嫌なの?」

「えー、わけわかんない公式がたくさんあるし、数字ばかりで疲れる」

「でもさ、数学は現代文とかと違って、答えは必ずひとつじゃん?」

「そうだけどさ〜、その答えに辿り着くまでが長いし、どこか間違えると一気に全部間違えるのが嫌だ」

「それが、数学の面白いところではあるんだけどね。ま、希空の場合は数学以外の教科に学力を吸い取られすぎて、数学だけがね・・・」

「仕方ないじゃん。中学生の時から数学は苦手だったんだから」

 私が通っている高校の偏差値は、68と県内でもかなり上の方。その中でも私の成績は、毎回2位という順位。

 1位になりたくてもなれない現実が、私の前に見えない壁として聳え立っている。

 理由は、ある教科の点数だけが著しく低いから。

「それにしてもね、定期テストで数学以外の教科はいつもほぼ満点なのに、数学だけ赤点って。悪いけど笑っちゃうわ」

 ニタニタとタチの悪い笑みを見せるあーちゃん。

「いいの! 数学以外はいつも学年1位だから!」

「数学さえ、高得点取れれば総合で学年トップになれるのにね」

「もー! あーちゃんの意地悪! 嫌いになっちゃうよ?」

「それはないね。希空、私のこと大好きだろうから」

 自信満々に告げる彼女に、若干ムカついてしまう。いつでも、大人の余裕?といったものを纏っているのが、腹立たしい。

 私もあーちゃんくらいの年齢になれたら、大人の余裕ってものが現れるのだろうか。

 26歳。私にとっては、なりたくてもなれないであろう年齢。

 周りの同級生は、何食わぬ表情のまま当たり前にその年齢に達していくのだろう。

 高校生のままの私を取り残して、大人への階段を確実に一歩一歩登っていくのだ。

 私には見えない透明な階段の先へと。