時間をかけて作られた手作り弁当を米粒ひとつ残すことなく綺麗に平らげる。

「ふぅ〜、食べた食べた!緑茶でも飲みたくなるね」

「今度は年寄りくさいね、未來」

「確かに」

 さっきも似たようなくだりをしたことを思い返す。壁にかけられている時計を見ると、休み時間が残り20分まで減っていた。

 時計の針が止まることなく、円を書くように1秒、また1秒と、こうしている間にも時間は流れていく。

 確実に今を生きている人たちは、私と同様に着実に寿命が減り続けている。

 私のベクトルとは、進んでいく方向は同じだが、緩やかさは全くの別物だろうけれど。

「そういえば、転校生の子はどう?」

 太陽...と名前を出そうかと思ったが、紛らわしくなるのは御免なので、あえて『転校生』と壁を張る。

「あぁ〜、それがさ。顔はかっこいいんだけどさ、だいぶ変わってるんだよね」

 頭に浮かんでくるのは、今朝彼と会話した記憶。

「ど、どんなところが?」

 該当している部分がありすぎて、共感してしまいそうになる。

「結構あるんだけど。まず、転校初日から遅刻してきた挙句、理由が校舎内を散歩してましたって理由がぶっとんでない?」

(あぁ、太陽は本当に校舎内を探索してから教室に向かったんだ・・・)

「え、そ、そうなんだ」

「なんか反応薄くない?だいぶ問題だと思うけど」

「いや、驚きすぎて言葉がね・・・」

 私も初めて聞いたら、『なんだその子!』と驚いていたに違いない。しかし、私は今朝そんなおかしな彼と出会ってしまっている。

 本当に実行するとは、信じてはいなかったが。

「それで、先生も呆れて自己紹介を促したんだけどさ、散歩しているうちに疲れたらしく教壇で倒れるように寝ちゃってさ」
 
「はぁ!?」

「あ、これには驚くんだ」

「そりゃそうでしょ。え、だって、自己紹介で寝るって・・・」

「だよね。みんな驚きすぎて、誰ひとりとして言葉が出てこなかったもん。先生でさえ、初めてだったみたいでそっとしておこうってことになったの」

 転校初日は、基本的にその後の学校生活の命運を握っているというのに、そんな大胆な行動をしでかすなんて肝が据わっているとしか考えられない。

 並大抵の人が真似できるものではない。

「そんなところが気に入ったのか知らないけど、男子たちはめっちゃ彼のこと気になったらしくて、すぐに打ち解けてたよ」

「あ、そうなんだ」

 ホッと肩を撫で下ろす。

(良かった。彼がひとりぼっちにならなくて)

「でもさ、妙なことにね、男子とは普通に楽しげに話すのに、女子とは一切話そうとしないんだよね」

「え?」

 今のは聞き間違いだろうか。そんなはずはない。だって、今朝彼はここで確かに私と...

「クラスの女子が、話しかけても無視ではないけど、冷たくあしらわれるみたい」

「そ、そうなんだ・・・」

 おかしい。彼と話した感じからして、そんなことをする人には見えなかった。どちらかと言うと、そんなことしないような小心者に見えた。

「ま、希空はここにいるから関わることはないと思うから安心してよ」

「う、うん。そうだね」

 曖昧な返事をする私に未來は、首を傾げていたが深く聞いてくることはなかった。

 もう1度、彼に会いたい気持ちが知らぬ間に膨らんでいる。

 その機会は、意外にもすぐ訪れた。あれは、多分青の絵の具を空に塗りたくったような綺麗な快晴だった。