”キーンコーンカーンコーン"

 校内に4時間目の授業終了の鐘が鳴り響く。45分間のお昼休憩がスタートする。

 あと数分もしないうちに校内は、楽しげな声で賑わい始めるだろう。

 私のいる保健室までは、そこまで声は響いてはこないが、無数の足音だけは上からいくつも聞こえる。

「さ、休憩休憩! じゃ、また午後の授業で!」

 足早に教室を出ていくあーちゃん。颯爽と出ていくあまり、着用している白衣が風と同化するように靡いていた。

 テーブルの上に散乱している教科書類をテーブルの端の方で整頓しておく。私が勉強している間、あーちゃんも何やら勉強をしていたが、手にしていた分厚い本を見ただけで眩暈がした。

 やはり、天才というのは本当だったのかもしれない。

 あーちゃんが出て行った後の保健室は、主人を失ったかのように静けさ。

 彼女がお昼休みになると、すぐに教室を出ていくには理由がある。私と未來が2人で休憩をしやすいように場所を提供してくれているのだ。

 きっと彼女は私にバレていないと思っているが、当然私にはバレバレ。

 あえてそのことを告げずに出ていくのは、彼女の優しさのひとつなのだろう。

 『失礼します』の声と同時に保健室の中に入室する未來。

 手には、可愛らしいピンクの花柄のお弁当入れの袋を持っている。

「一緒に食べにきたよ〜!」

「待ってたよ、未來」

 この言葉に嘘偽りはない。話せない弱音はあるが、未來は私にとって家族同然の大切な人。

「今日も朱美先生は、出て行っちゃったの?」

「うん。あーちゃんも一緒に食べればいいのに・・・」

 未來の前では、気が緩んでしまうのでついつい『あーちゃん』と呼んでしまう。最初は戸惑ってもいたが、今ではすっかり馴染んでしまった。

「いいな〜。私も朱美先生と仲良くなりたいよ。あんな綺麗な人と仲がいいなんて羨ましい」

「なんか未來、今の言動、容姿目当ての男子高校生っぽい」

「確かに」

 ゲラゲラと声に出して豪快に笑い合う私たち。これこそ、まさに男子高校生そのもの。

 生憎、私たちの辞書には『穏やかに笑う』といった可愛らしい表現は存在すらしていない。

「さ、食べよっか」

「そうだね」

 向かい合って座り、手を重ね合わせる。

『いただきます』

 重なり合う2人の声が、閉ざされた保健室の内側から光を灯していくのだった。