"コンコン"
 
 保健室の扉に人影が映る。誰かが、尋ねてきたみたいだが、生憎ここには私しか今はいない。

「し、失礼します」

「あ、どうも」

 見たこともない顔の生徒が、扉の前で硬直している。少しだけ赤みがかった茶色いマッシュヘアーに、犬のような垂れ下がった目。見るからにして優しくて、弱気そうな彼。

 上履きの色からして同級生なのだが、私は彼のことを知らない。

 学年が3クラスと多いわけではないので、名前を知らない人はもちろんいるが、顔を見たことがない人はいないはず。

「う、うわぁぁぁぁぁ!」

 当然叫び出す彼に、驚きのあまり体が仰け反ってしまう。

「ど、どうしたの?」

 彼に怯えながらもなんとか声を振り絞り、彼にたずねる。

「しゃ、しゃ・・・」

「しゃ?」

「喋ってる・・・僕、とうとう幽霊が見えるようになっちゃったんだぁぁぁぁ!!」

「えー! どこに幽霊なんているの! 怖い助けて!」

 "ガタンッ"

 どうやら、驚きのあまり保健室の真ん中に置かれているテーブルの角に、足をぶつけたらしく痛み悶えている彼。
 
 数秒後には、痛みが引いたのだろうか。

 あれほど、騒いでいたはずの彼が急に真顔になりこちらをじっと見つめてくる。

「え、君って幽霊じゃないの?」

「・・・は?」

 これが、私と太陽(たいよう)の最初の出会いだった。

 彼の第一印象は、うるさくて失礼なやつ。だって、生きている人間のことを幽霊扱いするなんて、とんでもなく失礼なことだ。いくら、肌や髪の毛が白いからといって、幽霊だなんて。

 でも、不思議と嫌な気はしなかった。彼となら、仲良くなれる。そんな気がしたんだ。