訓練場。
別のチームが使っていた。
一人の少女が魔力を使った羽を作り、それを飛ばす。それを受け取ったもう一人の少女がその羽を扱い目標まで飛翔し、切断する。鮮やかな手並みだった。魔力の羽を纏った少女は幻想的に着地、思わずシノアは見惚れてしまった。
「さぁ、シノアさん。ご自分の戦術機をお持ちになって」
「はい」
シノアが戦術機に魔力を込めると待機状態から戦闘状態へ移行する。刃がせり出て銃身が露わになる。剣銃一体型の戦術機だ。
「ストライクイーグル、第二世代の名品ですわね」
風間も戦術機を展開する。
「鳥の羽より軽く、蜂の針よりも硬く、時に鋼より重い。それが戦術機ですわ」
二水とシノアの後ろにいた少女が風間の戦術機を見て唸る。
「クレストらしい性能じゃのう。自主練か?」
「うわっ」
「誰!?」
「あら、シノアリスさん。何をしにここへ?」
どうやら風間は彼女と既知のようだ。
「戦術機の調整じゃ。寮に入ってから毎日来ておるぞ。工廠科じゃからのぅ」
「工廠科でありながら衛士でもあるエミーリア・V・シノアリスさん!」
衛士オタクの二水はあまりの興奮で鼻血を垂らした。
「二水さん、鼻血が出ているわよ」
「大丈夫かお主」
エミーリアはシノアの戦術機を触って様子を確かめる。
「魔力が充電されておるな。なかなか素直な戦術機じゃ」
「分かるんですか?」
「戦術機とは衛士と一心同体。触れれば触れるほど融合していき、戦術機の手足となる」
「私もそんな風になれるんでしょうか」
二水は不安そうにつぶやいた。
「横浜衛士訓練校に入れたと言うことはそうなれる見込みがあると言うことじゃ」
「だと良いんですか」
「風間だってそう思ってる筈じゃがな。お主らに言ってないのは……うーん、自信のない者の方が操りやすいからかのぅ?」
「ぬぬ」
「風間さん悪どい」
「戦術機の事をもっと知りたければ工廠科に来るが良かろう。百由様が色々と教えてくれると思うぞい」
◆
一ノ瀬真昼は自身の戦術機を見ていた。刀身は綺麗に整備され、可変機構も問題ない。
背後で作業している百由から声がかかる。
「どぉー?」
「問題ないです、バッチリです」
「少しガタついてたから少し部品を交換したわ。銃身はあと二回出動したら交換ね。覚えててよね。私忘れっぽいから。どういたしまして」
「うん、ありがとう」
そう言って真昼は外へ出て行った。
百由はため息をついて眼鏡を定位置に戻した。
「真昼の腕前であそこまで疲弊するなんてどれだけ戦ってるのよ。もう少し自分の体を労わりなさいよね」
真昼は工廠科に繋がるエレベーターに乗り込もうとすると、シノア達と鉢合わせした。
「あ、シノアちゃん。ごきげんよう」
「ごきげんよう、真昼様」
「工房に何か用なの?」
「はい、私の戦術機をもっと知ろうと思いまして」
「それは良い考えだね。知識面から覚えておけばいざという時に役に立つよ。あ、そうだ。戦術機はできるだけ盾に使わないようにね」
「何故ですか?」
「側面からの強度はやっぱり低めだから。一度や二度なら良いけど立て続けに受けると折れて戦えなくなっちゃうから、変な癖が付く前にステップ回避を取得して回避型の戦闘スタイルを目指した方が良いよ」
「わかりました」
そこで口を挟んできたのは風間だ。
「ステップ回避ですの? あれは廃れた技術ではありませんこと? 今はジャンプ回避が主流だと記憶していますが」
「うん、主流なのはジャンプ回避だけど私はステップ回避を絶対覚えるべきだと思うんだ」
「何故ですの?」
「そもそもこの二つの違いを説明できる?」
ニョキっと生えてきた二水が説明する。
「ステップ回避は二次元的な動きで回避する技術で消耗が少なく、回避距離が短い。ジャンプ回避は三次元的な回避で消耗が多く回避距離が長いことが知られています」
「うん、その通り。基本的にジャンプ回避の方がメリットが多いのは確かなんだけど、ステップ回避は瞬発力が高いから咄嗟の回避に役立つの。だから私はジャンプ回避よりステップ回避を重点的に教えているんだ」
「そうなんですね〜!」
「勿論、ジャンプ回避もできて損は無いんだけどね。デストロイヤーとの超高速戦闘では素早い判断と回避が重要だから」
「私も練習してみますわ。ここでお止めするのも申し訳ないですし、どうぞ」
「あ、ありがとう」
エレベーターを譲られて、真昼はそれに乗る。
エミーリアに案内されて、シノア達は工房に着いた。
「ここが工廠科じゃ」
「地下にこんな施設があったんですね」
ドアを開けるのと同時に悲鳴が飛び込んできた。
「あああ! 失敗した! この一月の努力が!」
失敗したと言う戦術機の刃を見ると、刃には規則正しくマギを制御する為の刻印がなされていた。そこに大きなヒビが入ってしまっていたのだ。これでは十分にマギを行き渡ることが出来ない。
「こんなものもあるぞ」
ライフリングをシノアは除く、そこにはマギを制御する為の刻印がびっしりとなされていた。
ひと段落ついて、ティータイムの時間になった。
三人は軽いものを食べたが、百由はパフェにステーキにジュースとラテと沢山ものを頼んでいた。それを全て平らげていた。
「それにしても真昼と姉妹誓約を結びたいなんてねー」
難しい顔で船を漕いでいた。
「何故、真昼様はあんなお辛そうなんですか?」
「百由様は何かご存知なのですか?」
「知ってるわ、だけど教えない」
「何故ですか?」
「本人が望まない事を私がベラベラ喋るわけにはいかないでしょ。衛士は税金も投入される公の存在であるけど個人情報は本人がそれを望まなければ非公開にされるの。本人の心理状態が戦略に直結する上に感じやすい10代の女子ともなれば、相応の対応ね」
風間が不満そうに言う。
「あのお方、あまり感度高そうには見えませんけど」
「感じ過ぎるのよ、感じすぎて振り切れてしまった。あとは本人に聞いてね。答えてくれるのなら」
「はい」
「どうしてそこまで真昼様に拘りますの?」
「初めて出会った真昼様と今の真昼様はまるで別人で、それが不思議で。知りたいんです」
あの笑顔で助けてくれた真昼と、今の作り笑顔でボロボロの真昼。
一体何があったのかシノアにはどうしても知りたかった。
「真昼様がそれを望んでなくてもですか? ご自分なら真昼様を変えられる? そんなのはシノアさんのエゴではなくて?」
「それは、そうかもしれないけど。何が真昼様を変えてしまったのか。何を胸にしまっているのか。それを知りたいんです」
「はぁ、これは当たって砕けるしかありませんわね。真昼様に冷たくされてボロ雑巾のようにあしらわれたシノアさんを慰めれば私の株は爆上がり! という寸法ですわ!」
「風間さん、妄想がダダ漏れです。というか真昼さんは優しく断るんじゃないですか?」
「断るのは前提なのね」
射撃訓練場。
発射音が何発が響く。
ドン! ドン! ドン! ドン!
窓には全弾命中。しかし位置はバラバラで一貫性がない。
真昼はため息をついて戦術機を置いた。
その様子を、同学年の最上梅は心配そうに見ていた。
「なんか心配ごとカ?」
「新入生のことが心配で」
「死亡率は二番目に高いからナ。真昼の心配もわかるゾ。だけど今回は粒揃いだ、心配することないんじゃないカ?」
「心配なのは今年から衛士になった子だよ。実力も人脈もないから傷つきやすい」
「そうだナー。そこは臨時遠征衛士してサポートすれば良いんじゃないカ?」
「うん、そうするつもり。心配してくれてありがとう。梅ちゃん」
「気にするナ! 戦友だロ!」
梅は真昼の肩を叩きながら、去っていった。
別のチームが使っていた。
一人の少女が魔力を使った羽を作り、それを飛ばす。それを受け取ったもう一人の少女がその羽を扱い目標まで飛翔し、切断する。鮮やかな手並みだった。魔力の羽を纏った少女は幻想的に着地、思わずシノアは見惚れてしまった。
「さぁ、シノアさん。ご自分の戦術機をお持ちになって」
「はい」
シノアが戦術機に魔力を込めると待機状態から戦闘状態へ移行する。刃がせり出て銃身が露わになる。剣銃一体型の戦術機だ。
「ストライクイーグル、第二世代の名品ですわね」
風間も戦術機を展開する。
「鳥の羽より軽く、蜂の針よりも硬く、時に鋼より重い。それが戦術機ですわ」
二水とシノアの後ろにいた少女が風間の戦術機を見て唸る。
「クレストらしい性能じゃのう。自主練か?」
「うわっ」
「誰!?」
「あら、シノアリスさん。何をしにここへ?」
どうやら風間は彼女と既知のようだ。
「戦術機の調整じゃ。寮に入ってから毎日来ておるぞ。工廠科じゃからのぅ」
「工廠科でありながら衛士でもあるエミーリア・V・シノアリスさん!」
衛士オタクの二水はあまりの興奮で鼻血を垂らした。
「二水さん、鼻血が出ているわよ」
「大丈夫かお主」
エミーリアはシノアの戦術機を触って様子を確かめる。
「魔力が充電されておるな。なかなか素直な戦術機じゃ」
「分かるんですか?」
「戦術機とは衛士と一心同体。触れれば触れるほど融合していき、戦術機の手足となる」
「私もそんな風になれるんでしょうか」
二水は不安そうにつぶやいた。
「横浜衛士訓練校に入れたと言うことはそうなれる見込みがあると言うことじゃ」
「だと良いんですか」
「風間だってそう思ってる筈じゃがな。お主らに言ってないのは……うーん、自信のない者の方が操りやすいからかのぅ?」
「ぬぬ」
「風間さん悪どい」
「戦術機の事をもっと知りたければ工廠科に来るが良かろう。百由様が色々と教えてくれると思うぞい」
◆
一ノ瀬真昼は自身の戦術機を見ていた。刀身は綺麗に整備され、可変機構も問題ない。
背後で作業している百由から声がかかる。
「どぉー?」
「問題ないです、バッチリです」
「少しガタついてたから少し部品を交換したわ。銃身はあと二回出動したら交換ね。覚えててよね。私忘れっぽいから。どういたしまして」
「うん、ありがとう」
そう言って真昼は外へ出て行った。
百由はため息をついて眼鏡を定位置に戻した。
「真昼の腕前であそこまで疲弊するなんてどれだけ戦ってるのよ。もう少し自分の体を労わりなさいよね」
真昼は工廠科に繋がるエレベーターに乗り込もうとすると、シノア達と鉢合わせした。
「あ、シノアちゃん。ごきげんよう」
「ごきげんよう、真昼様」
「工房に何か用なの?」
「はい、私の戦術機をもっと知ろうと思いまして」
「それは良い考えだね。知識面から覚えておけばいざという時に役に立つよ。あ、そうだ。戦術機はできるだけ盾に使わないようにね」
「何故ですか?」
「側面からの強度はやっぱり低めだから。一度や二度なら良いけど立て続けに受けると折れて戦えなくなっちゃうから、変な癖が付く前にステップ回避を取得して回避型の戦闘スタイルを目指した方が良いよ」
「わかりました」
そこで口を挟んできたのは風間だ。
「ステップ回避ですの? あれは廃れた技術ではありませんこと? 今はジャンプ回避が主流だと記憶していますが」
「うん、主流なのはジャンプ回避だけど私はステップ回避を絶対覚えるべきだと思うんだ」
「何故ですの?」
「そもそもこの二つの違いを説明できる?」
ニョキっと生えてきた二水が説明する。
「ステップ回避は二次元的な動きで回避する技術で消耗が少なく、回避距離が短い。ジャンプ回避は三次元的な回避で消耗が多く回避距離が長いことが知られています」
「うん、その通り。基本的にジャンプ回避の方がメリットが多いのは確かなんだけど、ステップ回避は瞬発力が高いから咄嗟の回避に役立つの。だから私はジャンプ回避よりステップ回避を重点的に教えているんだ」
「そうなんですね〜!」
「勿論、ジャンプ回避もできて損は無いんだけどね。デストロイヤーとの超高速戦闘では素早い判断と回避が重要だから」
「私も練習してみますわ。ここでお止めするのも申し訳ないですし、どうぞ」
「あ、ありがとう」
エレベーターを譲られて、真昼はそれに乗る。
エミーリアに案内されて、シノア達は工房に着いた。
「ここが工廠科じゃ」
「地下にこんな施設があったんですね」
ドアを開けるのと同時に悲鳴が飛び込んできた。
「あああ! 失敗した! この一月の努力が!」
失敗したと言う戦術機の刃を見ると、刃には規則正しくマギを制御する為の刻印がなされていた。そこに大きなヒビが入ってしまっていたのだ。これでは十分にマギを行き渡ることが出来ない。
「こんなものもあるぞ」
ライフリングをシノアは除く、そこにはマギを制御する為の刻印がびっしりとなされていた。
ひと段落ついて、ティータイムの時間になった。
三人は軽いものを食べたが、百由はパフェにステーキにジュースとラテと沢山ものを頼んでいた。それを全て平らげていた。
「それにしても真昼と姉妹誓約を結びたいなんてねー」
難しい顔で船を漕いでいた。
「何故、真昼様はあんなお辛そうなんですか?」
「百由様は何かご存知なのですか?」
「知ってるわ、だけど教えない」
「何故ですか?」
「本人が望まない事を私がベラベラ喋るわけにはいかないでしょ。衛士は税金も投入される公の存在であるけど個人情報は本人がそれを望まなければ非公開にされるの。本人の心理状態が戦略に直結する上に感じやすい10代の女子ともなれば、相応の対応ね」
風間が不満そうに言う。
「あのお方、あまり感度高そうには見えませんけど」
「感じ過ぎるのよ、感じすぎて振り切れてしまった。あとは本人に聞いてね。答えてくれるのなら」
「はい」
「どうしてそこまで真昼様に拘りますの?」
「初めて出会った真昼様と今の真昼様はまるで別人で、それが不思議で。知りたいんです」
あの笑顔で助けてくれた真昼と、今の作り笑顔でボロボロの真昼。
一体何があったのかシノアにはどうしても知りたかった。
「真昼様がそれを望んでなくてもですか? ご自分なら真昼様を変えられる? そんなのはシノアさんのエゴではなくて?」
「それは、そうかもしれないけど。何が真昼様を変えてしまったのか。何を胸にしまっているのか。それを知りたいんです」
「はぁ、これは当たって砕けるしかありませんわね。真昼様に冷たくされてボロ雑巾のようにあしらわれたシノアさんを慰めれば私の株は爆上がり! という寸法ですわ!」
「風間さん、妄想がダダ漏れです。というか真昼さんは優しく断るんじゃないですか?」
「断るのは前提なのね」
射撃訓練場。
発射音が何発が響く。
ドン! ドン! ドン! ドン!
窓には全弾命中。しかし位置はバラバラで一貫性がない。
真昼はため息をついて戦術機を置いた。
その様子を、同学年の最上梅は心配そうに見ていた。
「なんか心配ごとカ?」
「新入生のことが心配で」
「死亡率は二番目に高いからナ。真昼の心配もわかるゾ。だけど今回は粒揃いだ、心配することないんじゃないカ?」
「心配なのは今年から衛士になった子だよ。実力も人脈もないから傷つきやすい」
「そうだナー。そこは臨時遠征衛士してサポートすれば良いんじゃないカ?」
「うん、そうするつもり。心配してくれてありがとう。梅ちゃん」
「気にするナ! 戦友だロ!」
梅は真昼の肩を叩きながら、去っていった。