寝ようと机に突っ伏した斗和は何かを思い出したかのように顔を上げて恵那の方を振り向くと、


「お前、教科書とか揃ってんの?」


 転校して来たばかりで教科書が揃っているのか気になったらしく、それを確認する。

「え? あ、ううん、まだ。今週中には用意出来るって言われたけど……」という恵那の返答を聞いた斗和は、


「そ。じゃあこれ使えよ。俺、どうせ寝るから使わねぇし」
「え? で、でも……」
「いいって。それじゃ、おやすみ」
「あ……ありがと……」


 自分の教科書を使うように言って再び机に突っ伏した斗和は余程眠かったのか、担当の教師がやって来るものの数分で眠ってしまっていた。


(江橋くん、見かけによらず、親切だな)


 見た目から明らかに彼を不良だと思っていた恵那は、斗和の優しさに胸を打たれつつ、借りた教科書と真新しいノートを広げて一限目の数学の授業を受けていった。



 それから二限、三限と都度その教科の教科書を恵那に貸した斗和。

 けれど、四限目が始まる間際に彼のスマホに何やらメッセージが届いたらしく、それを目にするなり血相を変えた斗和。


「教科書、全部机の中に入ってるから、必要なの適当に取って使えよ」
「え? あの、江橋くん?」
「用が出来たから帰る。じゃあな」


 恵那に教科書を好きに使っていいと伝えた斗和は用事が出来たからと慌てて教室を出て行った。


(学生が授業よりも大切な用って、何?)


 何て思いながら、彼に言われた通り次の時間で使う英語の教科書を借りた恵那は、慌てて出て行った斗和の事を気にしながら残りの授業を受けるのだった。