「江橋! テメェ!」
「お前が頭悪くて助かったぜ」


 斗和が掴んでいた蘇我の足を離すとバランスを崩してその場に倒れ、手にしていたナイフも一緒に地面に落ちた。

 それに気付いた斗和はナイフを蘇我から遠ざけるよう蹴飛ばし、


「形勢逆転……だな?」


 起き上がろうとしていた蘇我の腕を捻り上げ、馬乗りになって勝ち誇ったように笑みを浮かべていた。

 そしてその直後、


『斗和さん!!』


 忍を筆頭に、プリュ・フォールのメンバーたちが続々と倉庫の中へなだれ込んで来た事で、蘇我は負けを認めて項垂れていた。


「恵那」
「……斗和……」


 押さえつけていた蘇我をメンバーの一人に任せた斗和は、地面に座り込んで呆然としていた恵那の元へ向かい、声を掛けてしゃがみ込む。


「悪かったな、巻き込んじまって」
「ううん。大丈夫。それに、斗和が悪い訳じゃないでしょ?」
「いや、俺のせいだって。しかも、怪我までさせちまったな……」


 ナイフを突き付けられた時にで来たのだろう。恵那の頬にはうっすら切り傷が出来ている。

 それに気付いた斗和は申し訳なさそうに表情を沈ませながら、その傷に触れる。


「――ッ」
「痛むか?」
「う、ううん……大丈夫……」


 傷に触れられた恵那がピクリと身体を震わせたのは、傷が痛むからでは無い。

 突然触れられて驚いたのと、斗和の指先が触れた瞬間、気恥しいような、何とも言えない感覚が身体を駆け巡ったから。


「とりあえず、ここから出るか。ほら、立てるか?」
「…………」


 斗和は立ち上がり、手を差し伸べながら立てるかと問い掛けるも、恵那は首を横に振る。


「……ごめん、何か、腰が抜けちゃって……立てない……」


 これまでに経験した事の無かった恐怖に晒され疲弊した事と、助かったという安堵から全身の力が抜けてしまい、動けなくなっていた恵那。

 そんな恵那に斗和は、


「仕方ねぇなぁ、暴れるなよ?」


 言いながら彼女の身体を軽々と抱き上げた。