「……斗和……」


 斗和の姿を目にした恵那の瞳からは、涙が溢れ出ていた。

 それは恐らく、助けに来てくれたという安堵からだろう。


「お前、本当に一人で来たのかよ? 頭悪ぃなぁ。一人で来たからって、こっちは俺一人だけが相手するんじゃねぇんだぜ?」
「別に構わねぇよ。それに、俺が一人で来たのは別にお前が一人で来いって言ったからじゃねぇよ」
「何だと?」
「お前らみたいな卑怯者を相手にするのは、俺一人で十分だと思ったから、一人で来たんだよ」


 斗和のその台詞に苛立った蘇我は、


「舐めた口利いてんじゃねぇぞ? おい、お前ら! やっちまえ!」


 恵那のすぐ横を陣取ったまま、下っ端の男たちに斗和へ向かうよう指示をだした。

 自分の方は何人もいるし、流石に手こずるだろうと高を(くく)っていた蘇我。

 けれど、

 相手が弱いのか、斗和が強過ぎるのか、五人以上いた男たちはあっという間にやられ、重なるように地面へ倒れ込んでいた。


「……っクソ……。おい、こっちに来いっ!」
「きゃっ!」


 斗和が他の男たちを相手にしている間に拘束を解いていた恵那の手を強引に引っ張った蘇我は彼女の身体を自身の方へ引き寄せると、ズボンのポケットからナイフを取り出して刃を斗和へ向けると、


「おい、江橋。この女に傷を付けられたくなかったら今すぐその場に膝をつけ!」
「…………」
「聞こえねぇのか? 言う通りにしねぇとマジでこの女の顔に傷付けるぞ!?」


 自分の言葉に従わない斗和に更なる怒りを覚えた蘇我は斗和に向けていた刃を恵那の頬に突き付けた。