「悪ぃ、恵那。今日から暫く忍と帰ってくれ。忍には頼んであるから」


 放課後、帰り支度を整えていた恵那に、斗和はそう声を掛けた。


「え? 斗和は?」
「あー、俺はちょっと、寄るとこあんだよ。だから、忍が来るまで外出んなよ?」
「うん、分かった」
「それじゃあな」


 寄るところがあると言った斗和は忍が迎えに来るまで待っているよう指示すると、さっさと教室を出ていってしまう。

 それから十分後、慌てた忍が恵那の待つ教室へ現れた。


「すいません恵那さん、お待たせしました! 帰りましょうか」
「忍くん。全然大丈夫だよ。寧ろごめんね、わざわざ来てもらって」
「そんなことないです! 恵那さんと話すの楽しいから、ぶっちゃけ会えるの楽しみにしてるんですよ!」
「そっか。そう言ってもらえて嬉しい」


 恵那自身は一人で帰っても良いのに思っているものの、それは斗和に止められている為一人で帰る事はしない。

 斗和も忍も都合がつかない稀なケースもこれまでに数回あったのだけど、その時はプリュ・フォールの誰かがわざわざ送ってくれた。

 どうしてそこまで? と不思議に思っていた恵那は忍にそれとなく聞いたところ、プリュ・フォールをよく思わない連中に目をつけられ、もしもの事があったら大変だから一人にならないよう斗和がメンバー全員に周知したという事を知った。

 恵那としては一人で居て危険な目に遭うより『えなりん』とからかわれる方が厄介だと思っていた事もあって、斗和の計らいを凄く有難く感じていた。


「そういえば、忍くんは斗和はどこに行ったのか聞いてる?」


 学校を出た帰り道、ふと先に帰って行った斗和の事が気になった恵那は忍に聞いてみるも、


「いや、実は俺も詳しくは知らないんですよね。とにかく恵那さんを頼むって言われただけで」
「そう、なんだ」
「まあ斗和さんはチームのリーダだし、たまにこういう事もあるんで、連絡が取れてる限りは心配しなくても大丈夫ですよ」
「そっか」


 だけど、この日を境に斗和は学校に姿を見せなくなった。