「……と、わ……?」


 突然の事に、目を丸くした恵那。

 そんな彼女をよそに、斗和は言葉を続けていく。


「ま、辞めるとか辞めねぇとか、そういうのは俺がとやかく言える事じゃねぇけどよ、休養でこの町に来たんなら、ここに居る間くらいは普通にしてろよ。周りの目なんか気にするな。何か言う奴がいれば俺に言え。だから、そんな下手くそな笑顔作るのは止めとけよ。不細工になるぜ?」
「……不細工って……」


 抱きしめられていた事で斗和から顔を見られない恵那の瞳からは薄ら涙が浮かんでいたのだけど、斗和の言葉に少しだけ可笑しさを感じた彼女はクスリと笑う。


「……ありがとう、斗和」
「別に、礼を言われるような事はしてねぇし?」
「それでも……ありがとう」


 自分を分かってくれる人はいない、何処へ行っても何も変わらない。

 そう思ってた恵那だけど、斗和の言葉に救われ、この町でなら、斗和が居てくれるなら、何かが変わるかもしれない。

 そう思えて嬉しくなり、恵那の表情は緩み、自然な笑顔が斗和へと向けられる。


「そうそう、そういうヘラっとした阿呆っぽい顔してる方が全然良いって」
「なっ……阿呆っぽい顔って……」


 そんなやり取りを続けていると、二人の耳にチャイムの音がきこえてくる。


「あー、もう一限始まる時間だ……今から言っても煩く言われて面倒だからサボるかぁ」
「ええ? 駄目だよ、今からでも行こうよ」
「いいんだよ、行きたきゃ一人で行けよ」
「えー……」


 サボるという斗和を説得するも、彼は行く気が無いらしい。

 大きな欠伸をしながら伸びをすると、そのまま大の字になって寝転んだ。

 自分のせいでサボらせてしまうし、一人で途中から教室に入るのは目立って気が引けると思った恵那は、


「……私も、サボる」


 そう一言言うと、斗和に倣って同じように寝転び空を見上げていた。