「……社長と揉めただけでクビとか、そんなんでいいのかよ?」
「……うん、いいの。それに……揉めたって言うか、強要されたっていうのかな……」
「強要?」
「……CANDY POPは人気アイドルグループとか言われてるけど、ここ半年くらい人気は落ち気味だったの。プロデューサーが新たなアイドルグループに力を注いでいる事が原因でね」
「へぇ……」
「このままじゃ困るからって、社長はグループ全員を集めて私に言ったわ、『お前はプロデューサーから気に入られてる、グループ存続の為、センターとしての役割を果たせ』って」
「何だよ、その役割って」
「……プロデューサーと、寝る事よ」
「なっ……」
「プロデューサーは私の事を気に入ってたから、アイドルグループをプロデュースするってなった時にスカウトしてくれた。それは有難いと思ってるけど、あの人、事ある毎に誘ってきたのよ。食事とか……ね。それを断り続けてきたから、怒ったんだと思う。だから、お気に入りを集めた新たなグループをプロデュースして、CANDY POPを潰しにかかってきたの。そうなれば、嫌でも私が自分のモノになると思ったんでしょうね」
「何だよ、それ……有り得ねぇだろ……」


 恵那の話は衝撃的で、斗和は思わず言葉を失った。


「社長の話を、私は断った。そしたら、社長は勿論メンバーも大激怒。CANDY POPがどうなってもいいのかって。笑っちゃうよね。グループの為なら私は、私の気持ちはどうなってもいいのかって感じ。前々からメンバーとは色々あったし、元々孤立してたから、何かもう、全てがどうでも良くなっちゃって……辞める事に、決めたんだ」


 辛い話なのに、斗和を心配させない為か明るく振る舞いながら話す恵那。

 作り笑顔だと分かるくらい笑えていない彼女を前にした斗和は、


「――馬鹿。無理して笑うなよ。そういう時は怒れ、悲しけりゃ、泣けばいい。ここでは、無理に笑顔なんて作る必要……ねぇんだよ」


 恵那の身体を自分の胸に引き寄せて抱きしめながら、そう口にした。