「んなの、放っておきゃ治るって」
「駄目だってば。ほら、見せて!」
「ッ痛ぇな、手当てすんなら、もっと優しくしろよ」
「あ、ごめん」


 半ば強引に斗和の腕を掴んだ恵那が袖を捲ると、服に隠れていた腕はだいぶ傷が深そうだった。

 擦り傷というより切り傷みたいなその痛々しいそれに、思わず目を覆いたくなる恵那。


「消毒液は滲みそうだから、水で洗い流す方がいいかも……」


 言って恵那はもう一つのミネラルウォーターのペットボトルを開けると、斗和の傷口に水を流していく。

 そして、擦り傷には軟膏を塗り、傷全体を覆えるよう、包帯を一生懸命巻いていく。


「……とりあえず、これは応急処置って事で……ちゃんと病院で手当てして貰ってね?」
「…………ああ」


 ちょっと不恰好な包帯の巻き方ではあるけれど、ひとまず傷口を覆えた恵那は満足して、他の擦り傷にも軟膏を塗っていく。


「あ、氷も持ってくれば良かったね……腫れ、冷やした方がいいのに……」


 そして、殴られたのか酷く腫れた頬に視線を移した恵那は、氷を持ってきて冷やした方が良かったと小さく項垂れた。


「良いって。こんなん良くある事だし。いちいち気にしてらんねぇよ」
「…………」


 気落ちしている彼女を励まそうと言葉を掛けた斗和だったのだけど、その言葉は恵那をより一層悲しませただけだった。