「……お前……、海老原……だったっけ?」
「そう。っていうか、どうしたの? その怪我……」
「別に……」
「でも……」
「いいから、放っておけよ。俺の事は、……構うな」
「…………分かった」


 心配して声を掛けた恵那だったけれど、放っておけと言われてしまった以上どうする事も出来ず、この場に留まる訳にもいかない彼女は後ろ髪引かれる思いでその場から立ち去った。


(大丈夫なのかな? っていうか、あんなに怪我して……病院行かなくて平気な訳?)


 命に関わる事は無いだろうけれど、痛々しい姿を思い出すと、やっぱり手当をした方がいいのでは無いかと思う恵那。


(一旦帰って、包帯とか持って行こう)


 構うなと言われたものの、あんな状態の人を放っておける程、非情な人間では無い恵那は急いで自宅に戻ると救急箱から包帯や消毒液などを手当り次第鞄に詰めていく。


(そうだ、水も持って行こう)


 水分補給もさせた方が良いかもしれないと冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して鞄に入れた恵那。


「恵那? また出掛けるのかい?」
「あ、おばあちゃん。うん、ちょっと友達のところに」
「そうかい。雨が降りそうだから傘、持って行くんだよ?」
「分かった! 行ってきます!」


 祖母に再び出掛ける旨を話した恵那は言われた通り傘を手にすると、急いで河川敷へと戻って行った。