「桜人」

柔らかなモカ色の髪を撫でながら、愛しいその名を呼ぶ。

弱くて、みじめで、消えたいほどダメな自分の中に、こんな強さが眠っているなんて思いもしなかった。

教えてくれたのは、彼だ。

悲しみに沈んだ世界から手を伸ばし、いつも私を支えてくれた。

私はやがて、私を変えてくれた彼に恋をした。

本当の恋は――人を強くする。

与えられるだけじゃない。本当は小さくて弱いこの人を、守ってあげたいと思う。

君のために、生きたいって思う。

「桜人が、好き」

心からの想いは、ごくごく自然に口からこぼれ出ていた。

驚いたように上げられた涙で濡れた顔に、心のままに微笑みかける。

「だから私は――これからもずっと、傍にて欲しい」

全部知ってるよ、と言葉を繋いだ。

「桜人が、ずっと苦しんできたことも。私のために、あふれるほどの言葉を書いてくれたことも。そんな桜人のすべてが、私は好き」

桜人は驚いた顔をしたあと、困惑したように眉を寄せて、その目にまた哀しげな色を浮かべた。

「でも俺は、絶対に許されないことをしたから――」

「許すとか、そんなんじゃないよ。桜人じゃなきゃだめなの」

そう答えると、ようやく桜人の目に、微かに希望の色が浮かんだ。

震える息が、耳元で「……本当に、いいのか?」と懇願するように囁いてくる。

深く頷けば、桜人の腕が背中に伸びてきて、そっと抱き返された。

「ありがとう……」

まるで壊れ物を扱うように私を抱きしめながら、桜人はその後も泣き続けた。

そんな彼の温もりを肌に感じながら、私は今までにないほど、満ち足りた気持ちになっていた。
もう泣かないで大丈夫だよ、桜人。

今度は私が、君のための、光となり陰となるから。