嫌な予感というものは、大抵当たっている。

それはもしかすると、「こうなったらどうしよう」という負の感情が、負の出来事をおびき寄せてしまうからかもしれない。

だけど、いったん転落してしまえば、何ごともなかなかいいふうには転がらない。

十六年と少し生きてきた中で、私は、そのことをすでに学んでいた。

美織と杏との関係が目に見えて変わってきたのは、ユーレイ部員前提で文芸部に入部した、翌日頃からだった。


「杏、体育館、早く行こ!」

廊下から美織が叫べば、体操服への着替えを終えた杏が、美織のもとへ駆けて行く。

「そういえばさ、次のクラスマッチ、何にする? 美織ってバスケ部だからバスケは出ちゃダメなんでしょ?」
「そうなの。だから、バレーにしようって思ってる。杏は?」
「わたしもバレー! 一緒にがんばろ!」

ふたりの楽しそうな声が、廊下の向こうへと遠ざかっていった。

ザワザワとした教室で私はひとり、黙々と体操服に着替えていた。

胸の奥が、ズドンと重い。

体育館にひとりで行こうが、誰かと行こうが、大した問題じゃないことは分かっている。

だけど私は、ひとりだけこの世界からはみ出してしまったような孤独を感じていた。

別に、喧嘩をしたわけじゃない。

ただ、ふたりの作る空気に入り込めないだけ。

そのことに、前からふたりとも勘づいていて、徐々に行動に移した。一緒にいて楽しい人に傍にいて欲しいと思うのは、当たり前のことだから。今となっては、休憩時間も、移動のときも、ほとんど私に声がかかることはない。

それでも、お弁当の時間だけは、まだ三人で机を囲んでいた。

私はふたりとほとんど話をすることなんてないし、明らかにはみ出してるけど、これは言ってみれば形式のようなもので、美織と杏は義務的に私と机を囲む。

「それでさ、そのときの写メがあるんだけど」
「なになに? 見せて見せて。あははっ、めちゃくちゃ面白い!」
「でしょでしょ!」

お弁当を食べながら、いつものように、ふたりははしゃいでいる。ふたりが作る独特の波長に乗れない私は、ひとり黙々とお弁当を口に運ぶ。

入りたい。けど、入れない。

中学校のとき、家庭事情を知られて一線を引かれたときの苦い思い出が、また私に歯止めをかける。

ふたりの笑い声が、周りの楽しそうな声が、さらに私を追い込む。

同じ机にいるのに、まるで見えない仕切りが私たちを隔てているみたい。

楽しそうなふたりの隣で、黙ってお弁当を口に運ぶ時間は、地獄のようだった。

きっと、私はもう、ここでお弁当を食べない方がいい。

だけど、自分から出て行く勇気もない。

ひとりになるのが怖いのだ。

お弁当は、友達と食べるのが当たり前だから。

特に女の子は、皆と一緒にいるのが当たり前だから、ひとりでいると目立ってしまう。

私は、しがみついてでも、普通の存在でいたいんだ……。