そのとき、ひときわ強い風が辺りに吹き荒れた。樫の枯れ枝がザワザワと共鳴し、冷たい冬の風が頬を撫でていく。

私ははっと顔を上げて、うごめく樫の木を見上げた。

抜けるように青い空、緑の芝生、病院の白い壁。

この景色を知っていると思った。

遠い昔、見たことがある。

担架が用意され、桜人が運ばれていく。

桜人を見送ったお医者さんが、光の方に向きなおった。

「彼は無事だ、心配ない。そもそもそこまで高いところから落ちたわけではないし、そのうえ樫の木の枝が、君たちを守ってくれたんだよ。怪我もないし意識もはっきりしているけど、君も一応検査した方がいい。中に入りなさい」

お医者さんに誘われ、光も病院の中へと戻っていった。

よく見ると、桜人が倒れていた周りには、無数の枝が落ちていた。二階だったのと、真下に樫の木があったことが、幸いしたようだ。

澄んだ青空に向けて、光と桜人を助けてくれた樫の木が、優しく枝をそよがせている。

――『そうだ、“君がためゲーム”をしよう』
――『君がためゲーム? なんだそれ』
――『古今東西みたいなかんじで、相手のためにできること、順番に言い合いっこするの』
――『……ふーん』

風の音が、どこか遠いところから、無邪気な子供の声を運んでくる。

ハッとして、私は辺りを見渡した。

だけどそこには、人知れず生い茂る芝生が、静かに広がっているだけだった。