***

「ありがとうございました~!」

店長の声が、店内にこだました。

制服用の水色のシャツの彼女の背中が、自動ドアの向こうに遠ざかっていく。ちゃんと飯を食べてるのかと心配になるくらい細くて白い脚が、夜の闇に紛れていった。

通りすがりのサラリーマン風の男が、ちらりと彼女を振り返った。その様子に、軽い苛立ちを覚える。

――心配だ。

日はどっぷり暮れてるのに、女子高生がひとり歩きなんて。

でも仕事はまだまだ残っているし、俺がどうにかしてやることはできない。

もやもやとした気持ちをどうにか心の中で押し殺していると、店長が近くに寄ってきた。

「ドアまで見送らなくて大丈夫だった? あの子、知り合いなんでしょ?」

「大丈夫です」

「大人しそうな、かわいい子だったね。もしかして、小瀬川くんの彼女?」

「……そんなんじゃないですよ」

言葉で抵抗しつつも、顔に熱が集まっていくのを感じた。俺は赤らんだ顔を隠すように、テーブル拭きに集中する。

「なんだ。いつも礼儀正しい小瀬川くんが、なぜかあの子にだけは冷たかったから、ははん、もしかしてツンデレくん?って思ったのに」

「……だから、俺そういうのほんといいんで……」

この店長、やたらと俺にばかり絡んでくるのはなんでなんだろう。話好きそうなバイトは、他にいくらでもいるに。

俺が話を避けたがると、店長はますます楽しそうに近づいてくる。思うに、ただのSだ。

「店長! レシートって、どうやって入れるんですか?」

「ああ、教えてなかった? はいはい」

レジに入ってた新人が、店長を呼んでくれたおかげでどうにか救われた。

俺はホッと息を吐くと、客席の中ほど、彼女が座っていたテーブルの片付けに取りかかる。

アイスティーのストレート。暇を持て余していたのか、ストローの袋が、じゃばら折りの虫みたいな形になっていたのを見て、子供みたいなその仕草に、少し笑いそうになった。

『はると……。よかった、いた』

俺を見つけるなり、開口一番そう言って微笑んだ彼女の顔が、頭にはっきりと残っている。

俺の目にはやはり白く光り輝いて見えるそれは、これ以上ないほど心を揺さぶった。


もっと、笑えばいい。

混沌とした俺の世界が、真っ白な光で染まるほどに。