――『無理して、友達ごっこなんかしてるからそうなるんだ』

小瀬川くんに言われたことが、今更のように、頭の中をぐるぐるしていた。

彼は、初めて話したというのに、私の心を暴いた。

かたくなに隠してきたのに。“普通”でいる努力をしてきたのに。

ほんの少しの間に、淡々と、私の努力を全否定してしまったんだ。

足が地面に縫い付けられたみたいに動かなくなって、私はそのまましばらく、ひとり呆然と夜のバス停に佇んでいた。


小瀬川くんに言われた言葉は、次の日も、ずっと頭の中から離れてくれなかった。

人の事情も知らないで、と腹を立てては落ち着いての繰り返し。

だけど、本当は心の奥底で理解していた。

小瀬川くんの言ったことは、正しい。

私は、ひとりになる不安から、ずっと顔を背けていた。この苦しみから抜け出すには、勇気を振り絞って、美織と杏から離れるしかないんだ。

きっかけを、ずっと探してた。

だけどきっかけなんて、待っていても来ない。

――自分で作るしかないんだ。


昼休み。

「あ~、お腹空いた。杏、早く食べよー」
「あれ? 美織、今日パン? おいしそう」

数学の授業から解放され、伸びをしながら会話をしている美織と杏。彼女たちが私の机に近くの机をひっつけようとしているのを見て、私は覚悟を決めて立ち上がった。

「……今日から、私、外で食べるね。だから、ふたりで食べて。ごめんね、今までありがとう」

心臓がバクバクと暴れまわっていて、昨日のように呼吸を忘れそうになったけど、どうにか言い切る。

呆気に取られている美織と杏奈をそのままに、お弁当を持って、急いで教室を出ようとした。

「え。何あれ、感じ悪い」
「他に食べる人いないだろうから、一緒に食べてあげてたのにね」

背中越しに、ヒソヒソと言い合うそんな声が聞こえて、胸がえぐられる心地がした。

だけど唇を引き結んで耐え、廊下に出る。

――言ってしまった。

美織と杏奈が、この先私を仲間に入れてくることはもうないだろう。

私は、完全にひとりぼっち。

女子グループからハブられた、哀れな人間。

普通じゃない状況に、全身から汗が噴き出すような焦燥感を覚えた。

でも、もうどうしようもない。

もう、後戻りはできない。

お弁当を食べられる場所を求めて、学校内を歩き回る。中庭も多目的室も、どこもお弁当を囲む生徒でワイワイとしていて、とてもではないけどひとりポツンと食べる勇気は湧かなかった。

誰の目も気にせずに食べたいけど、人がいないところに思い当たる節がない。

そのときふと、閃いた。

そうだ。あそこなら、きっと絶対誰もいないはず――。