二人が結界の出口をくぐると、そこにはくるぶしが隠れるほどに伸びた草むらが広がっていた。
遠くには幾つもの森や、集団で駆ける魔物の群れが見える。
二人の熊ん蜂が高々と舞い上がって撮影と位置情報の通信を開始する。
「不思議な感じね。ダンジョンって言うから薄暗いイメージだったけど、外の世界とあまり変わらないわね」
背後に浮かぶ白い出入口を振り返りながら、ラルは呟いた。
「第5階層まではこんな感じですよ。第6階層からは暗い洞窟や地下都市に変わってきます。ここから第6階層への入口までは約二日の行程になりますけど、今回は第6階層以降の許可が無いので、ここの基準点を拠点とした活動になると思いますよ」
「その辺は大丈夫よ。今日は羽剣の調子を確かめるだけだから、すぐ街に戻るわ」
――それに出会ったその日にお泊りっていうのもイケナイよね……テヘ。
目を閉じて、何かを想像しながら軽く舌を出す仕草をするラル。その右手は自分の頭を小突いている。サントは挙動のおかしな魔術士を無視して言葉を続けた。
「あっ、あそこの岩の陰に大ネズミがいますね。どうしますか?」
「えっ……? あっ、あれね。ちなみに好戦的?」
「こちらに気がつけば向かってくると思います」
「了解。じゃあ、はい」
軽く振った杖から小さな光球が飛び出し、岩に当たり弾ける。大ネズミはかぶりを向けると、二人の方へ勢いよく走ってきた。
「えっ?」
「さぁ早く羽剣を構えて。私は姿を消すわ」
サントが振り返ると、そこに居たはずの魔術士の姿が無くなっている。
「えっ……、えぇー!?」
「ほら、来たわよ」
ラルの声は近くから聞こえど、姿は見えない。
「わぁっ!」
草原を駆け抜けて大ネズミが突っ込んできたが、サントは意外なほど余裕を持ってそれを躱した。
「おっ、うまく避けたわね」
「やっ、はっ……」
二度三度と大ネズミは突進を繰り返すが、ヒラリヒラリと少年は避け続ける。
「おぉ、スピードAランクは伊達じゃ無いわね。でも、避けてばかりいないで、早く羽剣を構えて」
「わっ、わかりました! 付与魔法・武器強化+1!」
羽剣の形状が変化し、ほのかに白く光る魔法の刃が現れる。
大ネズミとすれ違いざまに羽剣を振るうサント。
白い光を纏う剣は軽い抵抗のみを残し、ネズミの灰色な胴体を真っ二つに斬り裂いた。
「えっ……?」
大ネズミは断面から血を流すこともなく、暴れまわると、その動きを止め、小さな光の玉を残して霧散した。
恐る恐るサントが近づくと、光は少年の胸元へと吸い込まれ、首からぶら下げた冒険者カードが小気味よい音を立てた。
カードには『サント・ユミック。討伐経験値3ポイント取得。ドロップアイテム・ネズミの尻尾を取得』と表示されていた。
手元に少し長めの尻尾を残し、冒険者カードの表示はすぐに消える。
「ちゃんと討伐出来て、経験値も手に入ったみたいね」
いつの間にか魔術士が姿を表し、少年の後ろから覗き込んでいた。
サントは思わずラルに抱きついて喜ぶ。
「ありがとうございます!! 初めて一人でモンスターを討伐することが出来ました!!」
「………………」
「ラルさん?」
ラルは抱きつかれた格好のまま硬直している。
――尊死。このまま死んでも……、いけない!!
ラルは少年の抱擁からするりと抜け出すと、数歩たたらを踏み距離を取った。
「ふぅ、嬉しすぎて死んじゃうとこだったわ……」
ラルは高鳴る鼓動を納めようと、深呼吸を繰り返してから着衣を整えた。
「さてと、ではここからが本番よ」
アイテムボックスを出現させると、魔術士は怪しく紫色に光る小さめな香炉を取り出した。
サントが目の輝きを増して食い入るように香炉を見つめる。
「これは私が西の海底ダンジョンで見つけたアーティファクト・魅惑の踊り子。広範囲にモンスターを呼び寄せる匂いをだすのよ。しかも、ただ呼び寄せるだけではなくて、レア度の高いモンスターから順に呼び寄せる事ができる優れものよ」
香炉に興味津々なサントの姿を見て、ラルは得意気に満面の笑みを浮かべた。
遠くには幾つもの森や、集団で駆ける魔物の群れが見える。
二人の熊ん蜂が高々と舞い上がって撮影と位置情報の通信を開始する。
「不思議な感じね。ダンジョンって言うから薄暗いイメージだったけど、外の世界とあまり変わらないわね」
背後に浮かぶ白い出入口を振り返りながら、ラルは呟いた。
「第5階層まではこんな感じですよ。第6階層からは暗い洞窟や地下都市に変わってきます。ここから第6階層への入口までは約二日の行程になりますけど、今回は第6階層以降の許可が無いので、ここの基準点を拠点とした活動になると思いますよ」
「その辺は大丈夫よ。今日は羽剣の調子を確かめるだけだから、すぐ街に戻るわ」
――それに出会ったその日にお泊りっていうのもイケナイよね……テヘ。
目を閉じて、何かを想像しながら軽く舌を出す仕草をするラル。その右手は自分の頭を小突いている。サントは挙動のおかしな魔術士を無視して言葉を続けた。
「あっ、あそこの岩の陰に大ネズミがいますね。どうしますか?」
「えっ……? あっ、あれね。ちなみに好戦的?」
「こちらに気がつけば向かってくると思います」
「了解。じゃあ、はい」
軽く振った杖から小さな光球が飛び出し、岩に当たり弾ける。大ネズミはかぶりを向けると、二人の方へ勢いよく走ってきた。
「えっ?」
「さぁ早く羽剣を構えて。私は姿を消すわ」
サントが振り返ると、そこに居たはずの魔術士の姿が無くなっている。
「えっ……、えぇー!?」
「ほら、来たわよ」
ラルの声は近くから聞こえど、姿は見えない。
「わぁっ!」
草原を駆け抜けて大ネズミが突っ込んできたが、サントは意外なほど余裕を持ってそれを躱した。
「おっ、うまく避けたわね」
「やっ、はっ……」
二度三度と大ネズミは突進を繰り返すが、ヒラリヒラリと少年は避け続ける。
「おぉ、スピードAランクは伊達じゃ無いわね。でも、避けてばかりいないで、早く羽剣を構えて」
「わっ、わかりました! 付与魔法・武器強化+1!」
羽剣の形状が変化し、ほのかに白く光る魔法の刃が現れる。
大ネズミとすれ違いざまに羽剣を振るうサント。
白い光を纏う剣は軽い抵抗のみを残し、ネズミの灰色な胴体を真っ二つに斬り裂いた。
「えっ……?」
大ネズミは断面から血を流すこともなく、暴れまわると、その動きを止め、小さな光の玉を残して霧散した。
恐る恐るサントが近づくと、光は少年の胸元へと吸い込まれ、首からぶら下げた冒険者カードが小気味よい音を立てた。
カードには『サント・ユミック。討伐経験値3ポイント取得。ドロップアイテム・ネズミの尻尾を取得』と表示されていた。
手元に少し長めの尻尾を残し、冒険者カードの表示はすぐに消える。
「ちゃんと討伐出来て、経験値も手に入ったみたいね」
いつの間にか魔術士が姿を表し、少年の後ろから覗き込んでいた。
サントは思わずラルに抱きついて喜ぶ。
「ありがとうございます!! 初めて一人でモンスターを討伐することが出来ました!!」
「………………」
「ラルさん?」
ラルは抱きつかれた格好のまま硬直している。
――尊死。このまま死んでも……、いけない!!
ラルは少年の抱擁からするりと抜け出すと、数歩たたらを踏み距離を取った。
「ふぅ、嬉しすぎて死んじゃうとこだったわ……」
ラルは高鳴る鼓動を納めようと、深呼吸を繰り返してから着衣を整えた。
「さてと、ではここからが本番よ」
アイテムボックスを出現させると、魔術士は怪しく紫色に光る小さめな香炉を取り出した。
サントが目の輝きを増して食い入るように香炉を見つめる。
「これは私が西の海底ダンジョンで見つけたアーティファクト・魅惑の踊り子。広範囲にモンスターを呼び寄せる匂いをだすのよ。しかも、ただ呼び寄せるだけではなくて、レア度の高いモンスターから順に呼び寄せる事ができる優れものよ」
香炉に興味津々なサントの姿を見て、ラルは得意気に満面の笑みを浮かべた。