「あれ?玲さんですよね?」

突然のことだった。

大学の近くのカフェでつかの間の休憩を楽しんでいるとき、アレがすべての始まりだった。

「えっと…」

多分バイトの子なんだと思う。私よりも少し若いくらいで、きっと高校生なんだろう。

でも、私に男子高校生の知り合いなんていないし、どこか出会ったこともないと思う。

「俺、湊です。川村湊」

あれから、川村に振られたあの日から、何年たったかわからない。でも、その名前を聞くと未だにアイツのことが、あいつと出会ったあの日のあいつの笑顔が頭に思い浮かぶ。

川村なんて、別に珍しい名字でもないし、特別変わった漢字を書くわけでもない。

なのに、この名前が特別に思えて仕方がない。

あいつに振られたあの日から恋がわからなくなった。好きという感情がスッと音もたてずに私の中から消えていった。