終幕


 日菜さんの命日から今日に至るまでの一年と5ヶ月間、血反吐を吐くような努力を重ねて来た。全ては今日の為に。
 日菜さんの居ないチームは物凄く寂しい。未だに心に空いた穴は塞ぎきっていない。
 しかし、それを負けて良い理由にしてはいけない。
 見ているんだ。日菜さんが空の上から。
 僕たちが勝つところを。
 残りの試合時間は二分。
 僕は渡辺先輩からパスを受け、ゴールへと駆ける。
 しかし、そう安々と都合良く動かせてはくれない。
 あまり配置が良くないので渡辺先輩へとボールを返す。
 途端に相手の選手が一斉に渡辺先輩を目掛けて駆け出す。
 僕はその流れに逆らって相手チームのゴールコート前を目掛けて駆け出す。
 渡辺先輩は僕の意図を読んだのか相手選手の到着を待つこと無く僕の方へとロングパスをする。
 渡辺先輩が放ったロングパスを胸トラップで受け止めて軽く辺りを見渡す。
 ディフェンスは此処には居ない。
 ドリブルをしながら相手チームのゴールキーパーへと注目する。
 彼は高校生ゴールキーパーの中でも屈指の実力を誇っている有名選手だ。洞察力に優れていてJ1のプロからも高い評価を得ている。彼もいずれJ1へとプロ入りするのだろう。
 あの頃の僕だとそんな彼を前に半ば諦めていただろう。
 でも僕は変われた。
 変わらせてくれた。
 日菜さんによって。
 感謝してもしきれない。
 だからせめて共に夢見てくれた夢を果たしてみせるよ。
 諦めたりなんてしない。
 絶望なんてしない。
 此処で負けてしまったら二度と日菜さんに顔向け出来ない。
 だから決める。シュートを今、此処で。
 ドリブルを止めて右足を大きく振りかぶる。
 小細工なんて要らない。最後はあの日此処(ここ)で打ったミドルシュートで終わらせよう。
 右足にかつて無い程に力を入れつつもしっかりと狙いを定めて打つ。
 スタジアム全体が静まり返る。
 入れと心の中で何度もそう叫ぶ。
 花咲さんへの思いを乗せたサッカーボールはゴールネットを突き破るような勢いで触れた。
 勝った。
 勝ったのだ。
 全国高等学校サッカー選手権大会で優勝した。
 チームメイトが僕の下へと駆け寄って抱き着いてくる。
 皆、目に涙を浮かべている。
 僕も例外では無い。目頭と頬が熱い。
 これまでの努力は無駄などではなかったと心から思う。
 最も喜びを分かち合いたい人がこの世に居ないことが物凄く悔しい。
 礼を言いたい。
 僕を再奮起させてくれたことを。
 僕を僕達を支えてくれたことを。
 最後まで側に居てくれたことを。
 僕もそっちに行った際に聞いて欲しい。
 あとこれも伝えておかなくては。


 僕がずっと日菜さんのことが好きだったことを。