第一幕


「美味しい!」
　花咲さんが車内ということもあって小声ながら歓喜の声を上げながら駅弁を頬張っている。
「一口いる?」
　そう言いながら牛すじを食べさせようとしてくる。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
　美味しい。花咲さんが歓喜の声を上げるのにも納得がいく。
「どれぐらい乗るの？」
「大体二時間ぐらいかな」
「じゃあ八時ぐらいには着くってこと？」
「そうなるね」
　厳密には八時六分にJR京都駅に到着する。その先のスケジュールも暗記しているため不測の事態に陥ることは無いだろう。
「体調は大丈夫？」
「うん!　今日は何故か調子良いんだよ!」
「それは良かった。少しでも調子が悪くなったら教えてね」
「どうしたの？　何時にも増してやけに優しいね。やっぱり私のことが好きだったりして」
「そこまで自惚れれるなら心配は杞憂だったね」

「見てー!　すっごく綺麗!」
　花咲さんが指差す先には大水槽があり、そこには小魚からエイなどの比較的大きな魚も居てもの凄く幻想的だ。
　花咲さんは目を輝かせてはしゃいでいる。


エレベーターの扉が開くと眼前にマンションの灯りという名のライトアップが施されている夜景が広がっている。
　花咲さんが僕よりも数歩前に出て一足先に景色を堪能しようとする。
「私の家見えたりしないかな?」
「あそこにある望遠鏡を使ったら見えるかもね」
「お!　珍しく涼介くんがノッてくれた!」