今日は何故だか、授業に集中できない。
まだ、休みが明けて三日しか経過していないからか? いや違う。隣に、人が居るからだ。
一学期の中期におこなった席替えでは、運が良かったのか、将又私に人が寄り付かなかったのか、今と同じ窓際の一番後ろの席を確保出来た。入学してから中期までの間は五十音順で並んでいた為人に囲まれていたのだが、一度この開放感に慣れてしまえば隣に人が居る席には戻れない。
そして、隣に居るのは今日来たばかりの編入生だ。ただでさえ、一学期を共に過ごしたクラスメイトですら極力近くに寄りたくないというのに、完全初対面の男であれば気が散るのも当然である。
机に頬杖を突き、隣の男――白川雪斗に目を向ける。
――それにしても、顔がいい。
近くで見ると、尚更実感する。
すっと通った鼻筋に、形の良い輪郭。長めの髪はただ伸ばしっぱなしにしている訳では無く丁寧に整えられていて、黒檀の木の様に黒い色をしているのに決して重くない。唇は女のそれの様に形が良く、ぱっちり二重の奥に覗く瞳はやや茶色掛かっている。
――顔がいい。本当に、顔がいい男だ。
彼の様に顔の整った男は、何処へ行っても成功するのだろうな。いや、ここまで整っていると逆に損をするのだろうか。顔だけで人を黙らせられるであろうその顔を持っていれば、きっとさぞかし持て囃されるのだろうが、やっかみの対象にもなり兼ねない。特に同性からは、嫌われやすいのでは無いだろうか。しかし逆に、この顔であれば男性すらも釣れてしまいそうとすら思う。
「な、何……」
突如白川に声を掛けられ、はっと我に返る。その顔に見入っていたからか、彼が私の視線に気づき此方を向いた事に気が付かなかった。
「俺の顔なんかついてる? ……ってか、何処見てんの?」
――何処見てるって、お前の顔を見ていたんだが。
授業中である先生に気付かれぬように慎重にタブレットを引き寄せ、〈何が〉と殴り書きをしてディスプレイを見せた。
「いや、俺の顔見ながら俺じゃない何かを見ていた気が……」
顔を見ながら別のものを見る、なんて事が出来る訳無いだろ。意味不明な事を言う白川に、思わず溜息をつく。
しかし、彼を見つめながら意識を何処か遠い場所へ飛ばしていたのも事実だった為、反論する事は出来なかった。無言で顔を前に戻し、黒板の文字を書き写そうとノートにペンを走らせる。しかし、ノートには跡が付くだけで何故だか色が出ない。使っているのはシャーペンだ。芯が切れたのだろうか、と手に持ったペンに目を向けると、タブレットペンシルを握ったままだった。
羞恥が込み上げるのと同時に、隣からふふ、と笑い声が聞こえる。それは決して、普段聞く嘲笑の様なものでは無かったが、抑えられない羞恥からバシンと白川の腕を思い切りはたいた。
「そこ、なにしてるの」先生の声が、しんと静まり返った教室に響く。そのせいで、私が白川をはたいた事がだいぶ目立ってしまった。
元凶である白川はどこ吹く風で悪びれもせず、黒板を見つめている。そんな白川を腹立たしく思いながらも、クラスメイトの視線を浴びながら先生に軽く頭を下げた。
まだ、休みが明けて三日しか経過していないからか? いや違う。隣に、人が居るからだ。
一学期の中期におこなった席替えでは、運が良かったのか、将又私に人が寄り付かなかったのか、今と同じ窓際の一番後ろの席を確保出来た。入学してから中期までの間は五十音順で並んでいた為人に囲まれていたのだが、一度この開放感に慣れてしまえば隣に人が居る席には戻れない。
そして、隣に居るのは今日来たばかりの編入生だ。ただでさえ、一学期を共に過ごしたクラスメイトですら極力近くに寄りたくないというのに、完全初対面の男であれば気が散るのも当然である。
机に頬杖を突き、隣の男――白川雪斗に目を向ける。
――それにしても、顔がいい。
近くで見ると、尚更実感する。
すっと通った鼻筋に、形の良い輪郭。長めの髪はただ伸ばしっぱなしにしている訳では無く丁寧に整えられていて、黒檀の木の様に黒い色をしているのに決して重くない。唇は女のそれの様に形が良く、ぱっちり二重の奥に覗く瞳はやや茶色掛かっている。
――顔がいい。本当に、顔がいい男だ。
彼の様に顔の整った男は、何処へ行っても成功するのだろうな。いや、ここまで整っていると逆に損をするのだろうか。顔だけで人を黙らせられるであろうその顔を持っていれば、きっとさぞかし持て囃されるのだろうが、やっかみの対象にもなり兼ねない。特に同性からは、嫌われやすいのでは無いだろうか。しかし逆に、この顔であれば男性すらも釣れてしまいそうとすら思う。
「な、何……」
突如白川に声を掛けられ、はっと我に返る。その顔に見入っていたからか、彼が私の視線に気づき此方を向いた事に気が付かなかった。
「俺の顔なんかついてる? ……ってか、何処見てんの?」
――何処見てるって、お前の顔を見ていたんだが。
授業中である先生に気付かれぬように慎重にタブレットを引き寄せ、〈何が〉と殴り書きをしてディスプレイを見せた。
「いや、俺の顔見ながら俺じゃない何かを見ていた気が……」
顔を見ながら別のものを見る、なんて事が出来る訳無いだろ。意味不明な事を言う白川に、思わず溜息をつく。
しかし、彼を見つめながら意識を何処か遠い場所へ飛ばしていたのも事実だった為、反論する事は出来なかった。無言で顔を前に戻し、黒板の文字を書き写そうとノートにペンを走らせる。しかし、ノートには跡が付くだけで何故だか色が出ない。使っているのはシャーペンだ。芯が切れたのだろうか、と手に持ったペンに目を向けると、タブレットペンシルを握ったままだった。
羞恥が込み上げるのと同時に、隣からふふ、と笑い声が聞こえる。それは決して、普段聞く嘲笑の様なものでは無かったが、抑えられない羞恥からバシンと白川の腕を思い切りはたいた。
「そこ、なにしてるの」先生の声が、しんと静まり返った教室に響く。そのせいで、私が白川をはたいた事がだいぶ目立ってしまった。
元凶である白川はどこ吹く風で悪びれもせず、黒板を見つめている。そんな白川を腹立たしく思いながらも、クラスメイトの視線を浴びながら先生に軽く頭を下げた。