〈ありがとう。凍結してるの、気付かなかった〉

 凍結した道路を抜けた先で、パッと彼から手を離しスマホでメッセージを送る。あとは、信号を渡って、歩道橋を渡れば自宅に着く。横断歩道は車通りが多いからか、隅に雪が多少残っているものの、凍結は無さそうだった。

「あんまり言いたくは無いけど、足悪いと危ないだろ。転んだら悪化するかもしれないし、変な痛め方するかもしれないし」

〈そうだな。気を付ける〉

 彼の言葉に頷いたと同時に、横断歩道の信号が青に変わった。ゆっくりと歩を進めながら、メッセージアプリを閉じ、映画の配信サービスを検索する。
 何処が一番作品数が多いのだろうか。サブスクリプションなるものは過去に使った事が無い為、正直疎いなんて程度ではない。とりあえずは、白川が希望するあの映画が観られれば良いのだが、折角加入するのなら作品数は多い方がいい。それとも、普通にレンタルビデオ店のオンラインでレンタルした方が早いのだろうか。いや、レンタルビデオ店のオンラインを利用するとDVDが宅配で届くだけな気がする。――だめだ、分からない。
 ここは素直に、恥を忍んで白川に聞いた方が早いだろう。そう思い、メッセージアプリを開いた。瞬間。

「あ、ぶなっ――!」

 白川の切羽詰まった声が背後で聞こえたと同時に、ドン、と何かに強く背を突き飛ばされた。
 ――この感触を、私は知っている。私の背にこびりついて離れなかった感触、思い出したくなかった感触。

 飽和させる、あの、夏が――