雪の上を歩く度に、ザクザクと音がする。私と白川の間に会話は無く、やけに静かだ。
帰ったら、また先程と同じ様に課題だろうか。白川も私も課題の大半を終わらせている為そう急ぐ必要性は無いのだが、如何せん我が家には何も無い故に課題以外やる事が無い。
そういえば、最近映画を観ていないな。私は読書の次に映画鑑賞が趣味であり、母が生きていた頃はよく二人で色んな映画を観ていた。テレビが無い為視聴は全てノートパソコンだったが、二人で観るだけなら充分だ。
それに今はサブスクリプションなるものがあり、わざわざレンタルビデオ店まで足を運ばなくとも自宅で簡単に映画や動画が視聴できる。
白川は、映画に興味があるだろうか。白川の性格上あまり興味がある様には見えないが、提案だけはしてみても良いかもしれない。
右手に持っていたスマホを操作し、白川にメッセージを送る。
〈映画、興味あるか〉
「映画? 興味無くは無いけど、好きなジャンルは狭いよ」
〈帰っても課題しかやる事無いだろ。ネットで映画でもレンタルして、観てみるか〉
「あぁ、なるほど」
白川が顔を上げ、曇った空を見上げる。
「この天気の中遊びに行くのはちょっと、だもんなぁ」
〈初詣に誘ってきた奴に言われたくは無いが〉
「初詣は違うじゃん。儀式みたいなもんだし」
〈儀式言うな〉
白川と並んで神社を後にし、ザクザクと足元で音を立てながら道を進んでいく。
正月は、サブスクリプションに加入する人が多いと聞く。暇を持て余した独り身の人達がこぞって加入し、大量に映画を観ては時間を消費するのだとか。
もしかすると、有名どころの映画が半額になっているかもしれない。利用客が多い時期は、映画半額セールや無料トライアル期間増加などの広告をよく見る気がする。
「俺、あの映画観たい。タイトル忘れたんだけど、沈没した豪華客船のやつ。確かイギリスの……サウサンプトン? からアメリカのニューヨーク、に渡った、実在した船の話じゃなかったっけ。その船の、沈没までを描いた恋愛映画」
〈そこまで情報揃っててなんでタイトルだけ忘れるんだよ〉
「俺あんまりタイトル覚えないから……」
彼の説明で、なんの映画かは直ぐに察しが付いた。母が好きで、よく観ていた映画だ。私も母の隣で観ていた為ストーリーはしっかりと覚えている。涙無しでは観られない映画だ。
「タイトルなんだっけ、船、実在、映画、とかで調べれば出てくるかな」
〈もうちょっと頭良く検索して欲しいものだが。まぁ、有名な映画だからその情報だけでも出てくるだろうな〉
「え? 遠海知ってんの?」
〈母が好きだった〉
「そういうの早く言えよ」
母が好きで、繰り返し観ていた映画を観るのは複雑だ。それも、人の死が関わる映画を。
だが、白川と一緒だったらそれも観られる気がした。彼が隣にいれば、嫌な事を考えず、母があの映画の何処に惹かれたのか、という所まで考えられる様に思える。――そんな考えは、甘いだろうか。やはり、彼と共に居ても母を思い出してしまうだろうか。
「――遠海」
彼に名を呼ばれ、顔を上げた。
「道路凍結してて、危ないから」
そう言って、白川が此方に手を差し伸べる。
彼の言葉に、これから進む先の道路が凍結している事に気付いた。考え事をしながら歩いていたら、きっと滑って転んでいた事だろう。彼の手を握る事に少々躊躇いを覚えるも、今まで彼に触れた事は幾度と無くある。それこそ、頭を撫でられたり、バスで補助して貰ったり――お姫様抱っこされたり。今更手を握る事に躊躇いを感じてどうする、と自身の思考に呆れ、彼の手を取った。
その手は、冬だというのに僅かに温かい。冷え性の私は直ぐに手足が冷えてしまうのだが、白川は冬でも体温を奪われずにその手足に熱を保っていられるタイプの様だ。
彼に手を引かれるまま、慎重に凍結した道路を歩いていく。
帰ったら、また先程と同じ様に課題だろうか。白川も私も課題の大半を終わらせている為そう急ぐ必要性は無いのだが、如何せん我が家には何も無い故に課題以外やる事が無い。
そういえば、最近映画を観ていないな。私は読書の次に映画鑑賞が趣味であり、母が生きていた頃はよく二人で色んな映画を観ていた。テレビが無い為視聴は全てノートパソコンだったが、二人で観るだけなら充分だ。
それに今はサブスクリプションなるものがあり、わざわざレンタルビデオ店まで足を運ばなくとも自宅で簡単に映画や動画が視聴できる。
白川は、映画に興味があるだろうか。白川の性格上あまり興味がある様には見えないが、提案だけはしてみても良いかもしれない。
右手に持っていたスマホを操作し、白川にメッセージを送る。
〈映画、興味あるか〉
「映画? 興味無くは無いけど、好きなジャンルは狭いよ」
〈帰っても課題しかやる事無いだろ。ネットで映画でもレンタルして、観てみるか〉
「あぁ、なるほど」
白川が顔を上げ、曇った空を見上げる。
「この天気の中遊びに行くのはちょっと、だもんなぁ」
〈初詣に誘ってきた奴に言われたくは無いが〉
「初詣は違うじゃん。儀式みたいなもんだし」
〈儀式言うな〉
白川と並んで神社を後にし、ザクザクと足元で音を立てながら道を進んでいく。
正月は、サブスクリプションに加入する人が多いと聞く。暇を持て余した独り身の人達がこぞって加入し、大量に映画を観ては時間を消費するのだとか。
もしかすると、有名どころの映画が半額になっているかもしれない。利用客が多い時期は、映画半額セールや無料トライアル期間増加などの広告をよく見る気がする。
「俺、あの映画観たい。タイトル忘れたんだけど、沈没した豪華客船のやつ。確かイギリスの……サウサンプトン? からアメリカのニューヨーク、に渡った、実在した船の話じゃなかったっけ。その船の、沈没までを描いた恋愛映画」
〈そこまで情報揃っててなんでタイトルだけ忘れるんだよ〉
「俺あんまりタイトル覚えないから……」
彼の説明で、なんの映画かは直ぐに察しが付いた。母が好きで、よく観ていた映画だ。私も母の隣で観ていた為ストーリーはしっかりと覚えている。涙無しでは観られない映画だ。
「タイトルなんだっけ、船、実在、映画、とかで調べれば出てくるかな」
〈もうちょっと頭良く検索して欲しいものだが。まぁ、有名な映画だからその情報だけでも出てくるだろうな〉
「え? 遠海知ってんの?」
〈母が好きだった〉
「そういうの早く言えよ」
母が好きで、繰り返し観ていた映画を観るのは複雑だ。それも、人の死が関わる映画を。
だが、白川と一緒だったらそれも観られる気がした。彼が隣にいれば、嫌な事を考えず、母があの映画の何処に惹かれたのか、という所まで考えられる様に思える。――そんな考えは、甘いだろうか。やはり、彼と共に居ても母を思い出してしまうだろうか。
「――遠海」
彼に名を呼ばれ、顔を上げた。
「道路凍結してて、危ないから」
そう言って、白川が此方に手を差し伸べる。
彼の言葉に、これから進む先の道路が凍結している事に気付いた。考え事をしながら歩いていたら、きっと滑って転んでいた事だろう。彼の手を握る事に少々躊躇いを覚えるも、今まで彼に触れた事は幾度と無くある。それこそ、頭を撫でられたり、バスで補助して貰ったり――お姫様抱っこされたり。今更手を握る事に躊躇いを感じてどうする、と自身の思考に呆れ、彼の手を取った。
その手は、冬だというのに僅かに温かい。冷え性の私は直ぐに手足が冷えてしまうのだが、白川は冬でも体温を奪われずにその手足に熱を保っていられるタイプの様だ。
彼に手を引かれるまま、慎重に凍結した道路を歩いていく。