今頃、二人は何を話しているのだろうか。クラスメイトの様に、私の悪口を言う事は無いとは分かっているのだが、気になってしまいそわそわと落ち着かない。
診察室を出て、待合室のソファに深く沈み込み、意味無くメッセージアプリを開いて白川とのトークを遡る。一方的に私がメッセージを送ってばかりで、白川からのメッセージは少ない。時々、謎のスタンプが挟まれる位だ。
ふと、先程の白川との会話を思い出し、メッセージアプリを閉じて検索エンジンを開いた。私が焦がれた作家であり、彼の父親である北条涼太の名前を打って検索をかける。
出てくるのは、巨大フリー百科事典に載せられた北条涼太のプロフィール。名前、生年月日、出身地、言語、活動期間、ジャンル、代表作、主な受賞歴。そして来歴やメディア出演、著書などが全て書かれている。その中から、著書の一覧を開いた。出版作品は、全部で四作。全て、我が家の本棚に収まっている。
ああ、そうか。自身の父親の本だから、白川は我が家の本棚に彼の本が全て揃っている事に気付いたのか。
あの時は大して気に留めていなかったが、今なら分かる。自身の父親の本が人の家の本棚に並んでいたら、ついその作家――父親の話を振りたくなってしまうだろう。
私は彼に北条涼太の話を振られた時、何と答えたのだったか。好きだと言った記憶はあるが、それ以上の話をしていない気がする。
彼は、自分の父親を尊敬している様だった。ならば、もっと北条涼太の本が好きだと、彼の描く世界に恋焦がれていると伝えておけば良かったかもしない。そうしたら、白川はきっと喜んだはずだ。
――いや、本当にそうだろうか。喜びはするだろうが、彼の中学時代の話を聞いていて、彼にとって北条涼太は一種の地雷の様なものに感じた。決して踏み込まれたくないものの様な。
人の心は複雑で、繊細だ。
私の言動は正しかったのか、もっと他に出来る事があったのではないかと思い悩む。しかしどれだけ悩もうと答えが出てくる事は無く、大きく溜息をつきスマホを持った手をソファに投げ出した。