辿り着いた教室。タブレットを片手で抱え直し、引き戸の取っ手に手を掛ける。だが、その手は扉を開く前に止まった。
「――白川くん、なんでいつもあの子と居るの?」
教室の中から聞こえる、椎名さんの声。教室の扉に埋め込まれた小窓は、擦りガラスになっている為中は見えない。しかし彼女の言葉からして、白川もそこに居るのがわかった。何となく入るタイミングを失ってしまい、取っ手から手を離す。
「なんで、って?」
「いや、だってあの子喋らないし、笑わないし、なんか人寄せ付けないオーラ放ってるし、一緒に居てつまらないでしょ」
「つまらねぇって思ってたら最初から絡んでねぇよ。それに、喋らないんじゃなくて喋れないんだよ。クラスメイトなのに、そんな事も知らなかったのか」
「……知らなかった訳じゃないけど。ってか何? なんでそんなに遠海さんの事庇うの? もしかして白川くん、遠海さんの事好きだったりする?」
「……」
白川の返事は無い。此処からでは中が見えない為、当然白川の表情も分からない。
何故、そこで黙ったのか。その沈黙には何の意味が込められているのか。別に白川が私をどう思っていようが関係ないはずなのに、何故だかその問いの答えが無性に気になってしまい、酷くもやもやする。
「え……? ほんとに遠海さんの事好きなの? なんで? だって冷淡少女だよ? 好きになる要素ないじゃん!」
白川の無言を肯定と捉えたのか、椎名さんがやや苛立った様子で早口で捲し立てた。
椎名さんは、誰にでも優しい女の子。幾ら皆から距離を置かれている〝冷淡少女〟の事であっても、自ら悪く言ったりはしない。――そんなの、ただの見せかけだ。
クラスに大きなカーストは存在しないが、それに似た暗黙のルールがある。その中でも、椎名さんは必ず名が上がる程の立ち位置だ。正直、今更椎名さんの本性を知った所で特別驚きはしなかった。寧ろ、そうだろうな、という納得の方が勝る。
どちらかと言えば今は、椎名さんよりも白川の本性の方が気になった。人には必ず裏表がある。白川の裏の顔とは、どんな顔なのだろう。今私は二人の間に居ないのだから、本音を言うには絶好の機会だ。
どうせ、障害があって可哀想だから、とか、見ていて不憫だから、なんて言うに決まっている。彼が私に構う理由なんて、それ位しか考えられない。
なのに――