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「期末、試験?」
「はい。二週間後に」

 ミズキは前の黒板で説明を始めた。

「我がセルフィア校では、年に三回、試験を行っています。今回は一回目ですね」

 リリアはキリヤを見る。キリヤは正しいよ、と頷いた。

「試験は座学と実技の二つがあります。座学は10教科。国語、数学、英語、理科、社会、音楽、美術、保健体育、技術家庭科、魔法科からですね。実技は主に魔法の技術と威力が問われます」
「わっ、いっぱい、だね」

 セルフィアの試験は大変だと聞いていたが、さすがだ。かなりの高範囲。しかも座学と実技となっているもんだ。辛そうだ。

「ミズキ」
「何でしょうか、キリヤ様」
「何が言いたいんだ?」
「察しがいいですね。さすが私のあるじ様です」

 ミズキは自慢げに言う。ふふっと可憐に微笑むと、提案をした。

「お勉強会をしましょう!」
「「お勉強会?」」

 リリアとキリヤの声が重なった。



「で? 何で俺らも参加なわけ?」
「勉強も大事だよ、レイ」
「ライガの言う通りだよ! レイは戦いばっかり大好きだもんね! そう言うの、脳筋って言うの、チユ、知ってるよ!」
「チユ。ストレート過ぎ」
「否定はしないのかよ」
「レイ、ドンマイ」

 結局、リリア、キリヤ、ミズキはもちろんのこと、レイ、ライガ、チユ、フィーネ、イツキの究極研究部のみんなで勉強会をすることになった。

「今日は苦手科目を重点的に行いましょう。苦手な教科がある人はいますか?」
「はいはーい! チユ、魔法科と歴史が苦手です!」
「魔法科、と、歴史……」

 今回の範囲は魔法陣に関するものと、近代の歴史に関するものと言われている。

「なら、魔法科は私が説明致しますね」

 ミズキは黒板にチョークで書きながら説明し始めた。

「魔法陣は基本的に第一魔法円(まほうえん)、第二魔法円、第三魔法円の三つの円によって構成されています。一番外側の円が第一魔法円です」

「第一魔法円と第二魔法円の間には、詠唱魔法の綴りが多いです。多分、筆記テストには魔法陣を描く問題が出ると思われます。練習した方がいいですね」

 魔法円が組み合わされて出来上がるのが魔法陣だ。魔法円だけでは魔法は発動しない。

 現代では魔法陣を用いなくても魔法が使えるほどにまで技術は進歩したが、魔法陣を使った方が安定して魔法を発動できるし、魔力消費が少ない。

 ただ、欠点として挙げられるのは魔法陣を描くまでに時間がかかる点だ。

 昔起きた戦争によってその課題が大きく浮上したため、現代は魔法陣を使わなくても魔法が使えるようになっているのだ。

「魔法陣を使わないと展開できない魔法もあります。魔法陣の構成や効力、仕組みが解明できていないためです。このような魔法を、私たちは古代魔法と言っています」

 要は、魔法陣なしで使える魔法は一般魔法と高等魔法に分類されており、魔法陣がないと使えない魔法は古代魔法と呼ばれているのだ。

 また、まだ発見されていない魔法なども古代魔法と呼ばれている。一般魔法と高等魔法、と、古代魔法の割合は半々だ。

 技術が進歩しても、古代魔法の解明はすぐにできるものではないのだ。

「一般魔法と高等魔法の違いは、認知度や行使率などもありますが、やはり魔力消費ですね。高等魔法は魔力消費が激しいので、あまり使われません」

 また、人によって使いやすい魔法と、使いにくい魔法が存在する。属性によるものだ。

 属性があった方が使いやすいだけなので、属性がないから使いにくい、というわけでもない。こればかりは相性の問題だ。

「以上で説明を終わりますが、チユ、わかりましたでしょうか?」
「うん! ありがとね、ミズキ」
「じゃあ歴史は俺が教えるよ。範囲は近代だったよね。結構興味あるんだ、その辺」

 手を挙げたのはイツキだった。キリヤは訝しげな顔をする。そんなキリヤをリリアは不思議に感じる。

 イツキはミズキと場所を交代し、話し始めた。

「今回の歴史の試験で大半を占めるのは『氷化事件』だね。三年前の出来事だし、みんな何となく覚えているとありがたいんだけど」

 氷化事件。三年前の冬、北側諸国のある地域を中心に、突如世界が凍った出来事だ。人に影響はなかったが、全てが凍りついたのだ。

 建物や地、すべてが氷と化した。その原因はわかっていない。しかもその氷は事件が起きて次の日には何事もなかったかのように消えていたという。

「南西諸島まで凍ったって言うんだから、かなりすごい事件だよね。しかもこの出来事を事件って言うのは、気候に影響があったからではないんだ。人為的に誰かが魔法を発動したからと考えられている」

 何も予兆もなく世界は凍ったのだ。驚きしか頭にはなかった。何が起きたのか、誰にもわからなかった。

「あの莫大な範囲の氷化ができるのは『氷の一族』しかできないと言われているけど……」

 氷の一族。それはーー。

「イツキ。それは私が説明してもいいでしょうか」
「あ、いい? ありがと」
「……氷の一族は水精霊族の一族の一つです。氷の魔法を中心に研究を重ねていた、すごい人たちだったのですが、数十年前にちょっとあって、今はもういない一族なんです」

 水精霊族の中でも強い発言力のあったのが氷の一族だ。

 魔法への強い探究心と多くの成果を挙げてきたすごい一族なのだが、人付き合いが苦手で、何があっても笑うことのない、まさに『氷』の一族だった。

「氷の一族の特徴は、氷の一族と呼ばれるほどに冷めた心と性格、そして両目に刻まれている氷の(マーク)です」

 ミズキは黒板に四つの線を描いた。出来上がったのは、四つの線が中央で交わる『✳︎(氷の結晶)』だった。

「この形が瞳に入っているそうです」
「氷の、形だ……」
「はい。だから氷の一族はすぐにわかるんです」

 たしかに皆、瞳の色は違っていても、何かの形は入っていない。瞳の色は属性を表すが、それに加えて形が入れば、どこの族に属しているかがわかる。

「まぁ、話を戻すと、氷の一族は規格外な魔法と知識と研究心があるから、氷化事件の主犯なんじゃないかって言われてたんだ。けれど氷の一族はもういないからね」
「いない? どう、して?」
「……氷化事件が起こる二、三年ほど前に賊に襲われたのです」

 氷の一族は皆から認められていたが、その冷たい表情と性格から、誤解されることもあった。何らかの理由で恨まれたため、氷の一族は殺されたと言う。

 氷の一族は強かった。だがそれは魔法陣を使っての魔法においてだ。

「えっと、魔法陣、を、使った、魔法、の、威力、は、大きい。でも、描く、のに、時間、が、かかる。……あっ、そっか!」

 リリアは気づいたようだ。

 氷の一族は賊に襲われるだなんて考えたことなどなかったはずだ。また、彼らの生み出した魔法は、他の一族に教えてもすぐに使えるほど、魔力消費は少なくない。

 氷の一族が使った魔法は、ほとんどが魔法陣を使っての発動だ。また、魔力消費が激しい。

 氷の一族は賊に襲われた際、魔法陣を描く時間はあったのだろうか。

 そして発動できたとしても、魔力消費が激しいため、次の攻撃の手を打てるほど魔力量は多かったのだろうか。

 魔法陣を描くまでの時間。そして魔法の連発をできるほどの魔力量。その時の氷の一族は、自分たちの魔法の欠点を無くせていなかった。

 氷の一族は、自分たちのの魔法の欠点によって、死に至ったのだ。

「……強ければいいというものではないのです。魔力の消費量、魔法の発動までの時間、魔法の威力。どれが欠けてもダメなんです。欠ければそれが、自分の命を奪うことにもつながるから」

 悲しい話だが、この氷化事件をきっかけに、強ければいいわけではないことを皆が知ることになった。

 今のところ、その三つが揃っている魔法は存在しない。

 そんな完璧な魔法を作るために、努力している学者は大勢いる。だが、何かを得るためには何かを諦めなければならない。代償はつきものだ。

「わたくしは完璧な魔法は作れないと思っています。もちろんできたら素晴らしいことだと思いますが……。そこまで欲張ってはいけない気がします」

 リリアも同意した。

(ちょっとずつでいい……)

 飛躍的に進歩し過ぎるのはよくない。周りが追いつけなくなる。

「そう言えば、魔法科では今後、魔法道具についても学ぶそうです。予習として、ライガ。教えていただけませんか?」
「いいけど……」

 ライガはゆっくり立ち上がり、イツキと交代した。

「えっと、魔法道具は魔法を発動する際に手助けをしたり、魔法そのそもを発動したりする幅広いジャンルのあるものです」

 種類は本当に数えきれないほどたくさんある。攻撃用の戦闘目的ものもあれば、回復用の日常的に使えるものもある。

「形もさまざまで、基本的には魔法陣が組み込まれています。魔力を流すと発動するのが一般的かな」

 物と魔法陣をくっつけたのだ魔法道具、と思ってくれればそれでいい。

「今、自分が作ってるのは本型の魔法道具。従来の魔法道具とは違って、魔力値が低い人でも少ない魔力量で魔法を発動できるといいなって思って作ってます」

 通常、魔法陣を使ってでの高等魔法は魔力消費が激しい。魔力値が低い人でも高等魔法を使えるようになる、というのはどういうことだろう。

「魔法陣に事前に自分が高等魔法が発動しない程度に魔力を籠めてみたんだ。使用時は残りの足りない魔力を満たせばいいだけ」

 分割払い的なことだろう。

 リリアはそう、解釈した。

「イツキ。それ、できたら俺に買い取らせてくれよ」
「……何をする気、レイ?」
「決まってるじゃないか。キリヤとの勝負の時に使うんだよ」
「…………」

 キリヤが冷たくレイを見る。ミズキやライガも呆れ顔だ。

「ほ、本気でやるわけないだろ!」
(いや、絶対本気だったろ……)

 冗談はやめてほしいものである。


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 夜中、ミズキはキリヤにメッセージを送った。

『キリヤ様。明日も勉強会、しませんか?』
『レイは実技試験のために特訓したいそうです』
『わたくしもキリヤ様から直々に技を伝授していただきたいです』
『よろしくお願いします』