「でね、ちょっと言い間違えただけで揚げ足とるように指摘してくるの! 本当むかつく!」
今夜もお風呂上がりに缶ビールをダイニングでぐびぐびと飲みながら、ソファで寝転んでいる彼に向かって大きな声で愚痴る。一日の出来事でもやもやしていることを、こうして発散しているのだ。
「酷いと思わない? ……ちょっと聞いてる?」
こちらからは姿が確認できないため、彼が今どんな様子なのか見えないけれど、いくら私が喋りかけても、彼は無反応を決め込んでいるようだった。
いつも彼は、黙ってじっと私の話を聞いてくれている、と言えば聞こえはいいけれど、相槌すら打ってくれないから聞いてくれているのかすら怪しい。
毎日の私の鬱憤晴らしの愚痴に、そろそろ嫌気がさしているのかもしれない。
最近では、お風呂上がりの私にあまり近寄ってきてくれない。アルコールを好まない彼が、私からするビールの匂いが苦手なのもあるかもしれないけど。
「ねえ……私の話聞くの嫌になっちゃった?」
不安になりながら問いかけても、彼は私の声に相変わらずの無反応。
元々口数は多くない方だし、すごいマイペースだから自分の世界に入っちゃうと私に構ってくれない彼。別にもっと優しくしてとか、いつも構ってとか多くを望んでいるわけじゃない。
だけどさ、一緒に住んでいる以上はコミュニケーションをもう少しでいいからとりたいよ。
きっと彼は私の気持ちなんて理解してくれないんだろうけど。
それでも結局私は彼が好きで、もう知らない!って一方的に怒っても、彼のいるこの家に帰りたいって思っちゃうんだ。
仕事で疲れても彼の顔を見るだけで、ほっとするんだ。ぎゅって抱きつくと自然と疲れも溶けていく。だからね、わがままかもしれないけれど……やっぱり私には貴方がいないとダメで、これからも傍にいてほしい。
空になった缶ビールを流し台に置いて、ソファに歩み寄る。
「ねえ」
ごろんと寝転がっている彼の横に座り込み、頬を優しく撫でた。彼の大きな瞳が私を映し、じっと見つめられる。その瞳は息を飲むほど綺麗で、吸い込まれそう。
ああ、やっぱり好きだなぁ。
「……これからも一緒にいてくれる?」
おずおずと彼に聞いてみると、漸く小さな口がおもむろに開かれた。
「ニャー」
珍しく私の問いかけに答えてくれた彼に、心の奥がじんわりと温かくなり、自然と笑みが溢れる。
すると、甘えるように私の腕に頭をすり寄せてきた。
……もう、可愛いんだから。
小さくて柔らかな彼を大事に抱きかかえて、そっと囁いた。
「いつもありがとう」
今日も私は無口な君に癒される。
会話なんて出来なくったって、時々ニャーって鳴いてくれる愛猫の君がいるだけで私は幸せなのです。
完