「相手を闇の中に引きずりこんだり、途中で引き戻したりを何度も繰り返す。さすがの私でも引いたぞ。アイクの心の闇を感じた気がした」
「うん。能力を試すためとはいえ、やり過ぎた感はあったな」
新しく手に入れたスキル『闇影』。それは黒い鞭のようなものを複数本操ることができ、闇の中に引きずりこむことのできる闇魔法だった。
どんな使い方ができるか色々試してみたのだが、少しやり過ぎてしまったみたいだ。
「途中まで闇の中に入れたらどうなるのかとか、闇の中まで入れた後に引き戻せるのかとか色々試してたんだよ。べつに、故意的にあんな状態になるまで遊んでたわけじゃないぞ?」
「あの人間、最後は精神崩壊してたんじゃないか?」
「……大丈夫であることを祈ろう」
俺が『闇影』を色々試した結果、対戦相手の精神を折るという勝利をしてしまった。
『嫌だ嫌だ嫌だ!』『たすけ……て』『あばばばば』『アハハ、ハハッ!』
といった感じで、徐々に正気を失くしていってしまった。さすがにマズいと思ったので、涙を流しながら笑い始めたのを見て、俺は『闇影』のスキルを使うのをやめた。
『オギャッ、オギャッ』と言い始めたときはさすがに怖くなったので、審判に目配せをして、俺は第三回戦を突破したのだった。
「まさか、アイクが闇魔法まで使えるようになるとはな」
「ああ。何度か『スティール』を使ったら、相手の闇魔法を奪えたみたいだ。……なんかこの『スティール』便利すぎないか?」
「だから、初めから言っていただろう! アイクはチート能力者なのだと!」
「うーん、いまいち自分がチート持ちっていう感覚が芽生えないんだよなぁ」
確かに便利な能力ではあるとは思う。でも、身に余り過ぎる力を手にしてしまったせいか、いまいち実感が湧かない。
ただスキルを奪うだけの『スティール』。そして、その奪ったスキルを解明する『鑑定』。この二つが揃わなかったら、俺はここまで強くはなれなかっただろう。
俺の力の使い方を教えてくれたルーナ。普段は馬鹿みたいな奴なのだが、ルーナに出会えなかったら、俺はずっとギースに馬鹿にされ続ける人生だったと思う。
そう考えると、やっぱりルーナには感謝をしないとだな。
「そして、これが今回の勝ち分だ! やったぞ、鬼勝ちだ! フハハハハっは?! さ、させんぞ、アイク!」
「くそっ、逃げやがった!」
俺はどんどん増えていくルーナ金が妬ましく、ルーナの頬を引っ張ってやろうかと思ったのだが、すんでのところで逃げられてしまった。
「遅い、遅いぞアイク! 残念だったな! 私の頬にそう何度も触れさせてやるものか! それは残像だぁ! フハハハハッーー」
「……次の対戦棄権してやる」
「それだけはダメなのだぁ! 今日一番の勝負になる予定だから、それも絶対に負けない熱い奴ぅ!」
そんなふうに泣きついてくるルーナを見下すように見ることで、曲げてしまったはずのへそも機嫌を取り戻していった。
「まったく、さっきの対戦は俺、死んでたかもしれないんだからな」
「ないない。アイクが負けるなんてことはありえんから安心しろ!」
「いや、あんな闇の中に引きずり込まれたらさ、さすがに死ぬだろ」
成人男性の精神を崩壊寸前まで追い込む魔法だ。闇魔法なんてまともに受けたら普通に死んでしまう。
「あ、そういえば、ルーナの言っていた『竜化』のスキルも俺が奪ってたみたいだ。その件に関しては、その、申し訳ない」
「ん? ああ、気にするでない。返せるようになったら、返してくれればよいから。それよりも、アイクよ。『竜化』のスキルは使うでないぞ」
「え? なんでだ?」
「アイクには使いこなせないからだ。使ったら死ぬと思っていい」
「え、怖いんだけど。今すぐ返せないかな」
「馬鹿者め。すぐに返せないから困ってるんだろうが」
ルーナはため息交じりに、こちらに少し呆れたような笑顔を向けてきた。
もっと食って掛かってくるかと思ったのだが、意外とルーナは落ち着いていた。初めは、あんなに返せと言っていたのに、どういう心境の変化だろうか。
「それよりもアイク、次は決勝だ! 私の賭けのためーーいや、気になるスキルを存分に試してくるがよい!」
「……本音漏れてんぞ」
俺はそんな欲望が漏れたルーナの声援を受けて、決勝の舞台へと足を運んだのだった。
決勝のリングには俺と筋肉に人を張り付けたような大男が立っていた。人に筋肉をではない。筋肉に人をつけたような男なのだ。背中にはでかい斧を背負っている。
筋肉、デカ過ぎんだろ……
筋肉ダルマ。まさに、その言葉がぴったりの男だった。
「フッー、フッー、フッー!」
息が荒いのか、その男の呼吸音はバーサーカーのそれだった。
やだなあ。なんでこの闘技場って斧の使用率高いんだよ。しかも斧は背負っているってことは、俺こいつと肉弾戦するの? 死んじゃうよ、俺。
「木端微塵にしろや! 監獄壊滅させた力を見せてみろ!」
「内臓を引きずり出せ! 殺せ殺せぇ!!」
「アイク! 前の試合のせいで、オッズが凄いつまらなくなってるぞ! 今日の勝ち分を全部かけたのに、私のソロ勝ちができなくなったぁ! どうしてくれるんだぁ!」
あいつは、普通に応援をするということができないのか。
「決勝戦! 戦闘狂のガガリ対、新人マスク、試合開始!」
審判は明らかに俺が肉片になるであろうマッチアップなのに、構わずに試合のゴングを鳴らした。
「『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』!!! フー、フー、フー!!!」
「え?」
目の前の男は何を考えているのか、肉体強化の上から何重にも肉体強化をかけた。鼻から血を吹き出しても、やめることはない。
そして、クラウチングスタートの姿勢を取ると、俺の目の前から消えた。いや、消えたのではない。俺が見失ったのか。
まずい、あんな筋肉ダルマの一撃を一撃でも食らったら終わりだ。
俺はそう考えて、試してみようと考えていたスキルをかけてその衝撃に耐える姿勢を取った。
「『硬化』!! うおぉっ!!!」
俺は自身の体を硬くするスキルである『硬化』を使った。しかし、その瞬間俺に向けて男が全体重を乗せた突進をしてきた。
『肉体強化』を何重にもかけた筋肉ダルマの突進。当然、吹き飛ばされる。そして、そのま場外に体が持っていかれそうになったので、俺はスキルを重ね掛けすることにした。
「『肉体強化』! えっと、あとは『加重』!!」
足で踏ん張るための『肉体強化』。そして、自身の体重を数倍にもするスキルである『加重』。それらのスキルを発動すると、ずんと体が重くなり、リングに足の先がめり込みそうになったが踏みとどまることができた。
「くっそ、俺は盗賊だぞ。なんでこんなパワー系みたいな戦い方してんだよ」
パワーに対して、パワーで受ける。そんな脳筋みたいないな戦い方。
そんな俺達の戦闘を見て、会場は一気に盛り上がりを見せたようだった。
「うぐっ、あああぁぁ!」
そして、俺の前では筋肉ダルマの男が大声を出しながら倒れていた。どうしたのかと思いながら、随分と余裕のある自分の体の様子に気がついた。
「ん? あれ? 痛く、ないな」
あれだけの突進をもろに食らったというのに、こちらは無傷だった。それに対して、目の前の男の腕は変な方向に曲がっていた。よっぽど痛かったのだろう。冷や汗をかきながら、うずくまっている。
俺の『硬化』に突進して、こいつが負傷したとうことなのだろうか?
え、いや、でも、『硬化』ってそんなに特殊なスキルでもない。こんな筋肉ダルマの骨を折るほど硬くもならないはずだろ。
何かおかしくないか?
そんなふうに俺が目の前で起きていることが分からないでいると、筋肉ダルマの男はこちらを睨みながらも、無事な方の腕をこちらに向けてきた。
「フー、フー! 『雷操』!」
筋肉ダルマの男がスキル名を口にすると、その手から雷を小さくしたような物がこちらに向けて放たれた。この男、これだけ筋肉頼りの戦法を取ってくるくせに、『肉体強化』以外のスキルも使えるらしい。
「『闇影』」
それに対抗して、俺は闇魔法である『闇影』を使用した。俺の影から出てきた複数の黒い鞭が俺と男の間に入り込んで、その雷の威力を殺して、弾いた。
だんだん『闇影』の使い方にも慣れてきたな。いや、慣れてもこの魔法は人前ではつかえないんだっけ?
「『鑑定』。へー、雷を操作して相手を攻撃できるのか。いいな、それ」
利便性が高くて、人前でも使えそうな『雷操』。そのスキルが欲しくなったので、俺は男に手を伸ばして、『スティール』を浴びせようとして、その手を下ろした。
「なんだ、もう持ってたのか。『雷操』」
鑑定の結果、俺がすでにそのスキルを持っていることが分かったみたいだ。俺はスキル名口にして、手の平に雷の塊を呼び寄せた。
俺の手の平では、先程目の前の男が使っていたよりも大きな雷の塊があった。
やっぱり、さっき男が使っていた『雷操』よりも威力が強いみたいだ。同じスキルなのにこの違い。そして、先程の異常に硬い『硬化』。
どうやら、俺がモンスターから奪ったスキルは普通のものではないらしい。
「まぁ、いいか。色々と試させてもらうよ」
俺はそう言って、倒れ込んでいる男の方に一瞥をくれた。
小さな悲鳴を上げた男は、恐ろしいものを見るかのような目をこちらに向けていた。
こうして、俺は本日行われた闇闘技場で優勝を果たしのだった。
少し前までギルドで無能扱いだったのに、気がつけば闇闘技場で優勝。
そんな波乱過ぎる人生に、俺は呆れるような笑みを浮かべるのだった。
「うん。能力を試すためとはいえ、やり過ぎた感はあったな」
新しく手に入れたスキル『闇影』。それは黒い鞭のようなものを複数本操ることができ、闇の中に引きずりこむことのできる闇魔法だった。
どんな使い方ができるか色々試してみたのだが、少しやり過ぎてしまったみたいだ。
「途中まで闇の中に入れたらどうなるのかとか、闇の中まで入れた後に引き戻せるのかとか色々試してたんだよ。べつに、故意的にあんな状態になるまで遊んでたわけじゃないぞ?」
「あの人間、最後は精神崩壊してたんじゃないか?」
「……大丈夫であることを祈ろう」
俺が『闇影』を色々試した結果、対戦相手の精神を折るという勝利をしてしまった。
『嫌だ嫌だ嫌だ!』『たすけ……て』『あばばばば』『アハハ、ハハッ!』
といった感じで、徐々に正気を失くしていってしまった。さすがにマズいと思ったので、涙を流しながら笑い始めたのを見て、俺は『闇影』のスキルを使うのをやめた。
『オギャッ、オギャッ』と言い始めたときはさすがに怖くなったので、審判に目配せをして、俺は第三回戦を突破したのだった。
「まさか、アイクが闇魔法まで使えるようになるとはな」
「ああ。何度か『スティール』を使ったら、相手の闇魔法を奪えたみたいだ。……なんかこの『スティール』便利すぎないか?」
「だから、初めから言っていただろう! アイクはチート能力者なのだと!」
「うーん、いまいち自分がチート持ちっていう感覚が芽生えないんだよなぁ」
確かに便利な能力ではあるとは思う。でも、身に余り過ぎる力を手にしてしまったせいか、いまいち実感が湧かない。
ただスキルを奪うだけの『スティール』。そして、その奪ったスキルを解明する『鑑定』。この二つが揃わなかったら、俺はここまで強くはなれなかっただろう。
俺の力の使い方を教えてくれたルーナ。普段は馬鹿みたいな奴なのだが、ルーナに出会えなかったら、俺はずっとギースに馬鹿にされ続ける人生だったと思う。
そう考えると、やっぱりルーナには感謝をしないとだな。
「そして、これが今回の勝ち分だ! やったぞ、鬼勝ちだ! フハハハハっは?! さ、させんぞ、アイク!」
「くそっ、逃げやがった!」
俺はどんどん増えていくルーナ金が妬ましく、ルーナの頬を引っ張ってやろうかと思ったのだが、すんでのところで逃げられてしまった。
「遅い、遅いぞアイク! 残念だったな! 私の頬にそう何度も触れさせてやるものか! それは残像だぁ! フハハハハッーー」
「……次の対戦棄権してやる」
「それだけはダメなのだぁ! 今日一番の勝負になる予定だから、それも絶対に負けない熱い奴ぅ!」
そんなふうに泣きついてくるルーナを見下すように見ることで、曲げてしまったはずのへそも機嫌を取り戻していった。
「まったく、さっきの対戦は俺、死んでたかもしれないんだからな」
「ないない。アイクが負けるなんてことはありえんから安心しろ!」
「いや、あんな闇の中に引きずり込まれたらさ、さすがに死ぬだろ」
成人男性の精神を崩壊寸前まで追い込む魔法だ。闇魔法なんてまともに受けたら普通に死んでしまう。
「あ、そういえば、ルーナの言っていた『竜化』のスキルも俺が奪ってたみたいだ。その件に関しては、その、申し訳ない」
「ん? ああ、気にするでない。返せるようになったら、返してくれればよいから。それよりも、アイクよ。『竜化』のスキルは使うでないぞ」
「え? なんでだ?」
「アイクには使いこなせないからだ。使ったら死ぬと思っていい」
「え、怖いんだけど。今すぐ返せないかな」
「馬鹿者め。すぐに返せないから困ってるんだろうが」
ルーナはため息交じりに、こちらに少し呆れたような笑顔を向けてきた。
もっと食って掛かってくるかと思ったのだが、意外とルーナは落ち着いていた。初めは、あんなに返せと言っていたのに、どういう心境の変化だろうか。
「それよりもアイク、次は決勝だ! 私の賭けのためーーいや、気になるスキルを存分に試してくるがよい!」
「……本音漏れてんぞ」
俺はそんな欲望が漏れたルーナの声援を受けて、決勝の舞台へと足を運んだのだった。
決勝のリングには俺と筋肉に人を張り付けたような大男が立っていた。人に筋肉をではない。筋肉に人をつけたような男なのだ。背中にはでかい斧を背負っている。
筋肉、デカ過ぎんだろ……
筋肉ダルマ。まさに、その言葉がぴったりの男だった。
「フッー、フッー、フッー!」
息が荒いのか、その男の呼吸音はバーサーカーのそれだった。
やだなあ。なんでこの闘技場って斧の使用率高いんだよ。しかも斧は背負っているってことは、俺こいつと肉弾戦するの? 死んじゃうよ、俺。
「木端微塵にしろや! 監獄壊滅させた力を見せてみろ!」
「内臓を引きずり出せ! 殺せ殺せぇ!!」
「アイク! 前の試合のせいで、オッズが凄いつまらなくなってるぞ! 今日の勝ち分を全部かけたのに、私のソロ勝ちができなくなったぁ! どうしてくれるんだぁ!」
あいつは、普通に応援をするということができないのか。
「決勝戦! 戦闘狂のガガリ対、新人マスク、試合開始!」
審判は明らかに俺が肉片になるであろうマッチアップなのに、構わずに試合のゴングを鳴らした。
「『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』『肉体強化』!!! フー、フー、フー!!!」
「え?」
目の前の男は何を考えているのか、肉体強化の上から何重にも肉体強化をかけた。鼻から血を吹き出しても、やめることはない。
そして、クラウチングスタートの姿勢を取ると、俺の目の前から消えた。いや、消えたのではない。俺が見失ったのか。
まずい、あんな筋肉ダルマの一撃を一撃でも食らったら終わりだ。
俺はそう考えて、試してみようと考えていたスキルをかけてその衝撃に耐える姿勢を取った。
「『硬化』!! うおぉっ!!!」
俺は自身の体を硬くするスキルである『硬化』を使った。しかし、その瞬間俺に向けて男が全体重を乗せた突進をしてきた。
『肉体強化』を何重にもかけた筋肉ダルマの突進。当然、吹き飛ばされる。そして、そのま場外に体が持っていかれそうになったので、俺はスキルを重ね掛けすることにした。
「『肉体強化』! えっと、あとは『加重』!!」
足で踏ん張るための『肉体強化』。そして、自身の体重を数倍にもするスキルである『加重』。それらのスキルを発動すると、ずんと体が重くなり、リングに足の先がめり込みそうになったが踏みとどまることができた。
「くっそ、俺は盗賊だぞ。なんでこんなパワー系みたいな戦い方してんだよ」
パワーに対して、パワーで受ける。そんな脳筋みたいないな戦い方。
そんな俺達の戦闘を見て、会場は一気に盛り上がりを見せたようだった。
「うぐっ、あああぁぁ!」
そして、俺の前では筋肉ダルマの男が大声を出しながら倒れていた。どうしたのかと思いながら、随分と余裕のある自分の体の様子に気がついた。
「ん? あれ? 痛く、ないな」
あれだけの突進をもろに食らったというのに、こちらは無傷だった。それに対して、目の前の男の腕は変な方向に曲がっていた。よっぽど痛かったのだろう。冷や汗をかきながら、うずくまっている。
俺の『硬化』に突進して、こいつが負傷したとうことなのだろうか?
え、いや、でも、『硬化』ってそんなに特殊なスキルでもない。こんな筋肉ダルマの骨を折るほど硬くもならないはずだろ。
何かおかしくないか?
そんなふうに俺が目の前で起きていることが分からないでいると、筋肉ダルマの男はこちらを睨みながらも、無事な方の腕をこちらに向けてきた。
「フー、フー! 『雷操』!」
筋肉ダルマの男がスキル名を口にすると、その手から雷を小さくしたような物がこちらに向けて放たれた。この男、これだけ筋肉頼りの戦法を取ってくるくせに、『肉体強化』以外のスキルも使えるらしい。
「『闇影』」
それに対抗して、俺は闇魔法である『闇影』を使用した。俺の影から出てきた複数の黒い鞭が俺と男の間に入り込んで、その雷の威力を殺して、弾いた。
だんだん『闇影』の使い方にも慣れてきたな。いや、慣れてもこの魔法は人前ではつかえないんだっけ?
「『鑑定』。へー、雷を操作して相手を攻撃できるのか。いいな、それ」
利便性が高くて、人前でも使えそうな『雷操』。そのスキルが欲しくなったので、俺は男に手を伸ばして、『スティール』を浴びせようとして、その手を下ろした。
「なんだ、もう持ってたのか。『雷操』」
鑑定の結果、俺がすでにそのスキルを持っていることが分かったみたいだ。俺はスキル名口にして、手の平に雷の塊を呼び寄せた。
俺の手の平では、先程目の前の男が使っていたよりも大きな雷の塊があった。
やっぱり、さっき男が使っていた『雷操』よりも威力が強いみたいだ。同じスキルなのにこの違い。そして、先程の異常に硬い『硬化』。
どうやら、俺がモンスターから奪ったスキルは普通のものではないらしい。
「まぁ、いいか。色々と試させてもらうよ」
俺はそう言って、倒れ込んでいる男の方に一瞥をくれた。
小さな悲鳴を上げた男は、恐ろしいものを見るかのような目をこちらに向けていた。
こうして、俺は本日行われた闇闘技場で優勝を果たしのだった。
少し前までギルドで無能扱いだったのに、気がつけば闇闘技場で優勝。
そんな波乱過ぎる人生に、俺は呆れるような笑みを浮かべるのだった。