「いけぇ! ぶち殺せぇ!」
「乳くせぇガキが来る場所じゃねーんだよ!」
「血だぁ! 血を見せろぉ!」
俺はそんな罵声を浴びせられながら、一向に止まらない冷え汗を流していた。
目の前には殺人3回、窃盗14回をしてきたという大男。そんな男と普通の青年である俺がリングに向かい合わせられていた。
なんで俺がこんな場違いのところにいるのか、それは全てこいつが原因だ。
「いけぇ、アイク! おまえのオッズえぐいことになってたぞ! 私以外誰も賭けてなかったわ! フハハハハ!」
この銀髪のロリっ子が全ての元凶である。
「地下の闇闘技場の人間からスキルを奪ってしまおう!」
宿屋にて、ルーナがそんなことを言い出した。
当然、現実味のない話である。そんな話をされて、俺は一人置いていかれていた。
「よっし、アイクも異論はないみたいだな! それでは、さっそくーー」
「まてまて! 異論しかないわ!」
俺の沈黙を了解したと捉えたのか、ルーナは荷物の整理をやめて、さっそくどこかに向かおうとしていた。
「なんだ? そんな驚くような顔して」
「実際に驚いてんだよ! なんだその闇闘技場って! そんなのあるわけないし、あっても俺なんかが入っちゃダメなところsだろ! 瞬殺される自信しかないわ!」
ルーナは俺の言っていることのどこの部分が分からなかったのか、意味が分からないと言った様子で首を傾げた。
「闇闘技場はあるし、アイクが負けることなんてないぞ?」
「そんなことはない。そもそも、そんなのあるなんて聞いたことないし、あったとしても勝てる自信がない!」
「あの人間に勝ったのにか? まぁ、アイツにかったくらいじゃ、自信もつかないか」
「あっ」
そうだった。時折、忘れそうになるが俺はギースに勝ったのだった。
いまいちピントはこないが、俺がいたギルドのトップの実力を持つギースを一撃で倒したのだ。
さすがに、ギースが油断してたこともあるが、それでも勝つことができた。多分、油断をしていない状態だったとしても、対等には渡り合えていたはず。
ということは、もしかしたら闇闘技場の方に出場しても、良い線いくかもしれない。
いや、そもそも闇闘技場ってなんだよ。
「とりあえず、ついて来い。話はそれからだな」
ルーナはそう言うと、俺を引っ張りながら宿屋を後にした。
「いや、本当になったのかよ」
そして連れてこられた闇闘技場。そこでは、前科を持つ物達の力自慢大会が開催されていた。
参加者同士で殺し合いをして、先に戦うことができなくなったものが敗者となる。一般客はどちらが勝つのかを予想して、金を賭ける。一部の富裕層による賭け事の場として、そこは確かに存在していた。
「人間は所詮醜い生き物だからな。この手の見せ物はなくならんのだよ」
「ルーナ……」
そう言ったルーナの少し寂しそうな横顔は、しばらく俺の脳裏に残ることになりそうだった。
ルーナは一体、この景色をどう見ているのだろう。そんなことを考えながら、ルーナの方に視線を向けると、その視線に気づいたルーナがこちらに振り向いた。
「そんな顔をするな、分かっておる。ほら、これだろ?」
寂しそうな表情から、ルーナは少し呆れたに笑みを向けてきた。まるで、しょうがないなとでも言いたげな表情。
そして、一枚の紙を渡してきた。
「参加申し込み書……いや、俺書いてないし、血印も押してないんだけど!」
「作っておいてあげたぞ! 感謝しろ! ワハハハ!」
「まてまて、地下闘技の申し込みを代理でするとか、バカやなのか? バカなんだろ?!」
「む! 私に向かってバカとは何事だ!」
クソ馬鹿野郎と罵らなかっただけでも、俺を褒めて欲しいものである。ルーナの睨みに負けずに睨み返していると、やがてルーナが折れたように溜息を洩らした。
「普通に考えてみろ。アイクは私のスキルを複数個奪ってるんだぞ? 負けるわけがなかろうに!」
「それは、そうかもそれないけどさ」
「そして、できるだけスティールでスキルを奪い尽くしてしまえ。その中にある『鑑定』を引き当てるまでな!」
そんなふうに送り出されて、俺は前科複数持ちの大男と対面していた。
俺はせめて顔はバレない様にと、売れない格闘家のようなマスクをして顔だけはバレない様にした。
しかし、いくら顔がバレなくてもここで死んでしまっては意味がない。
ちくしょう、こうなりゃやけだ。俺は覚悟を決めてその男に向かい合った。
「なんだよ、俺の相手はクソガキかよ」
大男は俺の前に立つと、身の丈ほどある斧を軽々しく肩に担いだ。その風圧が俺の前まで来て、そのまま腰を抜かしそうになる。
「第一回戦! 熊手のイノムー対新人マスク、試合開始!」
しかし、そんな俺の心情など知る由もないのだろう。審判は開始のゴングを慣らした。
「心の準備もさせてくれないのかよ」
俺はそんなことを嘆きながら、右手をその男に向けてスキルを発動した。
「スティール!」
「……はぁ?」
当然、俺がスキルを発動したところで、何も起こるはずがなかった。少しの沈黙の後に、会場が壊れるんじゃないかと思うほどの大きな笑い声が響いた。
スティールを発動したのに、何も発動しなかった。笑うには十分な理由である。
「スティール! スティール! スティール! スティール! スティール!」
俺がスティールを繰り返すたびに、大きくなる会場の笑い声。やがて、目の前の大男は飽きられたように、その担いでいた斧を大きく振りかぶった。
「クソガキが! ここはお笑いやる場所じゃねーぞ!」
もう限界か。
俺はその斧が振り下ろされるよりも早く、ルーナから奪ったスキルの発動に移った。前にギースに放ったレベルでは足りないと思った俺は、全身の力を込めてそのスキルを発動した。
「空拳!!!」
その瞬間、目の前の大男の体が浮いた。
「え?」
その男は空中に浮いた後、十メートルほどぶっ飛び、そのまま立ち上がれなくなっていた。
俺を含めて何が起きたのか分からない。それでも、そんな会場に一人だけその状況を受け入れている者がいた。
「うっわ、手加減なしでやりおった。さすがの私でも引くぞ」
呆れるようなルーナの声。その声が会場に響き終わった頃、遅れて大歓声が俺の元に届いてきた。
その歓声を受けて、俺もようやく現状を理解することができた。
俺が闇闘技場で、第一回戦を無事に突破したという事実を。
どうやら、俺は現時点でもかなり強いらしかった。
「乳くせぇガキが来る場所じゃねーんだよ!」
「血だぁ! 血を見せろぉ!」
俺はそんな罵声を浴びせられながら、一向に止まらない冷え汗を流していた。
目の前には殺人3回、窃盗14回をしてきたという大男。そんな男と普通の青年である俺がリングに向かい合わせられていた。
なんで俺がこんな場違いのところにいるのか、それは全てこいつが原因だ。
「いけぇ、アイク! おまえのオッズえぐいことになってたぞ! 私以外誰も賭けてなかったわ! フハハハハ!」
この銀髪のロリっ子が全ての元凶である。
「地下の闇闘技場の人間からスキルを奪ってしまおう!」
宿屋にて、ルーナがそんなことを言い出した。
当然、現実味のない話である。そんな話をされて、俺は一人置いていかれていた。
「よっし、アイクも異論はないみたいだな! それでは、さっそくーー」
「まてまて! 異論しかないわ!」
俺の沈黙を了解したと捉えたのか、ルーナは荷物の整理をやめて、さっそくどこかに向かおうとしていた。
「なんだ? そんな驚くような顔して」
「実際に驚いてんだよ! なんだその闇闘技場って! そんなのあるわけないし、あっても俺なんかが入っちゃダメなところsだろ! 瞬殺される自信しかないわ!」
ルーナは俺の言っていることのどこの部分が分からなかったのか、意味が分からないと言った様子で首を傾げた。
「闇闘技場はあるし、アイクが負けることなんてないぞ?」
「そんなことはない。そもそも、そんなのあるなんて聞いたことないし、あったとしても勝てる自信がない!」
「あの人間に勝ったのにか? まぁ、アイツにかったくらいじゃ、自信もつかないか」
「あっ」
そうだった。時折、忘れそうになるが俺はギースに勝ったのだった。
いまいちピントはこないが、俺がいたギルドのトップの実力を持つギースを一撃で倒したのだ。
さすがに、ギースが油断してたこともあるが、それでも勝つことができた。多分、油断をしていない状態だったとしても、対等には渡り合えていたはず。
ということは、もしかしたら闇闘技場の方に出場しても、良い線いくかもしれない。
いや、そもそも闇闘技場ってなんだよ。
「とりあえず、ついて来い。話はそれからだな」
ルーナはそう言うと、俺を引っ張りながら宿屋を後にした。
「いや、本当になったのかよ」
そして連れてこられた闇闘技場。そこでは、前科を持つ物達の力自慢大会が開催されていた。
参加者同士で殺し合いをして、先に戦うことができなくなったものが敗者となる。一般客はどちらが勝つのかを予想して、金を賭ける。一部の富裕層による賭け事の場として、そこは確かに存在していた。
「人間は所詮醜い生き物だからな。この手の見せ物はなくならんのだよ」
「ルーナ……」
そう言ったルーナの少し寂しそうな横顔は、しばらく俺の脳裏に残ることになりそうだった。
ルーナは一体、この景色をどう見ているのだろう。そんなことを考えながら、ルーナの方に視線を向けると、その視線に気づいたルーナがこちらに振り向いた。
「そんな顔をするな、分かっておる。ほら、これだろ?」
寂しそうな表情から、ルーナは少し呆れたに笑みを向けてきた。まるで、しょうがないなとでも言いたげな表情。
そして、一枚の紙を渡してきた。
「参加申し込み書……いや、俺書いてないし、血印も押してないんだけど!」
「作っておいてあげたぞ! 感謝しろ! ワハハハ!」
「まてまて、地下闘技の申し込みを代理でするとか、バカやなのか? バカなんだろ?!」
「む! 私に向かってバカとは何事だ!」
クソ馬鹿野郎と罵らなかっただけでも、俺を褒めて欲しいものである。ルーナの睨みに負けずに睨み返していると、やがてルーナが折れたように溜息を洩らした。
「普通に考えてみろ。アイクは私のスキルを複数個奪ってるんだぞ? 負けるわけがなかろうに!」
「それは、そうかもそれないけどさ」
「そして、できるだけスティールでスキルを奪い尽くしてしまえ。その中にある『鑑定』を引き当てるまでな!」
そんなふうに送り出されて、俺は前科複数持ちの大男と対面していた。
俺はせめて顔はバレない様にと、売れない格闘家のようなマスクをして顔だけはバレない様にした。
しかし、いくら顔がバレなくてもここで死んでしまっては意味がない。
ちくしょう、こうなりゃやけだ。俺は覚悟を決めてその男に向かい合った。
「なんだよ、俺の相手はクソガキかよ」
大男は俺の前に立つと、身の丈ほどある斧を軽々しく肩に担いだ。その風圧が俺の前まで来て、そのまま腰を抜かしそうになる。
「第一回戦! 熊手のイノムー対新人マスク、試合開始!」
しかし、そんな俺の心情など知る由もないのだろう。審判は開始のゴングを慣らした。
「心の準備もさせてくれないのかよ」
俺はそんなことを嘆きながら、右手をその男に向けてスキルを発動した。
「スティール!」
「……はぁ?」
当然、俺がスキルを発動したところで、何も起こるはずがなかった。少しの沈黙の後に、会場が壊れるんじゃないかと思うほどの大きな笑い声が響いた。
スティールを発動したのに、何も発動しなかった。笑うには十分な理由である。
「スティール! スティール! スティール! スティール! スティール!」
俺がスティールを繰り返すたびに、大きくなる会場の笑い声。やがて、目の前の大男は飽きられたように、その担いでいた斧を大きく振りかぶった。
「クソガキが! ここはお笑いやる場所じゃねーぞ!」
もう限界か。
俺はその斧が振り下ろされるよりも早く、ルーナから奪ったスキルの発動に移った。前にギースに放ったレベルでは足りないと思った俺は、全身の力を込めてそのスキルを発動した。
「空拳!!!」
その瞬間、目の前の大男の体が浮いた。
「え?」
その男は空中に浮いた後、十メートルほどぶっ飛び、そのまま立ち上がれなくなっていた。
俺を含めて何が起きたのか分からない。それでも、そんな会場に一人だけその状況を受け入れている者がいた。
「うっわ、手加減なしでやりおった。さすがの私でも引くぞ」
呆れるようなルーナの声。その声が会場に響き終わった頃、遅れて大歓声が俺の元に届いてきた。
その歓声を受けて、俺もようやく現状を理解することができた。
俺が闇闘技場で、第一回戦を無事に突破したという事実を。
どうやら、俺は現時点でもかなり強いらしかった。