「ん? あれ? 体が動かん」

 目を開けると、そこはなぜかただ空が広がっていた。

 どういうことかと思って周囲を確認しようとしたのだが、体が思うように動かなかった。そして、なんか肩甲骨らへんが筋肉痛になっている。

 なぜだ?

「……やっと起きたか、アイクよ」

「あ、アイクさん、おはようございます」

「ん? ああ、おはよう」

 俺が目を覚めると、ルーナがすぐに俺の顔を覗きこんできた。そこから少し離れた所にアリスの顔。

 特にルーナは何か言いたげな顔をしている。

 ……何かやらかしたのか、俺。

 そんなことを考えていると、何やら後頭部に柔らかい感触があることに気がついた。

ちょうど目を開けた位置にルーナがいるという構図と、ルーナの体勢から察するに、どうやら俺はルーナに膝枕をされているらしかった。

 女の子に膝枕をして貰うという経験がなかったので、俺はむず痒くなって、ルーナから視線を外してしまった。

 ふとした瞬間に母性のような物をちらつかせないで欲しい。

 いや、普通に考えて、こんなロリっ子相手にそんなものを感じるわけがないか。

 ……なんだ、ただの気のせいだったか。

「む。アイクよ、何か失礼なことを考えていないか?」

「安心しろ。ただの事実だ。あっ、そうだ、俺たちを襲ってきた奴はどうなった?」

 なぜこんな所で横になっているのか思い出せないが、俺たちが襲われていたことは思い出した。

 確か、その後に『竜化』のスキルを使ったあたりから意識がなくなって……ということは、体が動かないのは『竜化』の反動か?

 俺は体をルーナとアリスに起こしてもらって、上半身を持ち上げた。

 すると、そこには短髪の男の首から下が氷漬けにされていた。

 歯をがちがちと震わせており、体が冷え切っているのか肌は真っ白になっていた。

「……どうしてこうなった?」

「アイクが殺すなと言ったから、いちおう、生かしておいてはいる」

「わ、私は手足を少し叩いただけです。ちゃんと、約束通り手加減もしました」

「……手足の骨を砕いて、そのうえで骨がバラバラになるまで叩き続けていたのは誰だったかの」

「してませんよ! ほ、本当です! 結果としてそうなっただけで、他意はなかったんですよ!」

 ルーナにジトっとした目で見つめられたアリスは、焦ったように言葉を繕おうとしているようだった。

 いや、結果として、しているのか。

 俺の見えていないところで何をされたのか分からない男を不憫にも思うが、俺たちも殺されそうになったのだから、多少はひどいことをされても文句は言えないだろう。

「まぁ……生きてはいるみたいだし、問題ないか」

「な、なんなんだ。お前たちは」

 男は体を震わせて、歯をカチカチとさせながらなんとか言葉を口にしていた。顔が青ざめているし、この状態で放置したらそのまま体温を奪われて死んでしまいそうだ。

「そのセリフはこっちのセリフだ。おっと、まず話を聞く前に、お前のスキルを貰うからな」

 俺は少しだけキザにそんなセリフを吐くと、不安げな顔をしている男の方に手のひらを向けようとーー向けようとーー。

「ちょっ、誰か俺の腕を支えてくれないか?」

 ダメだ、力は入るのだが上手く腕が上げられない。

『竜化』の反動えぐ過ぎないか?

 俺が力を入れても腕を上げられずにいると、アリスが俺の手を支えてくれて、氷漬けにされている男の方に向けてくれた。

 なんだか締まらないような気がするが、目の前にいる男もまだ恐ろしそうな顔をしているし、問題ないか。

「ま、まだ何かする気か?」

「すぐに分かる。『スティール』……『スティール』、『スティール』、『スティール』、『スティール』、『スティール』」

「な、何してんだ?」

 俺が『スティール』を何度も浴びせ続けると、男は何をされているのか分からないのか、しばらくの間ただ眉を潜めていた。

 そのまま、しばらくの間『スティール』を浴びせ続けていると、やがて手応えがなくなったことに気がついた。

「打ち止めか。どれ……あった、これか『ターゲット』」

「は? 『ターゲット』? お前も『ターゲット』を持っているのか?」

「いや、お前のを奪っただけだ」

「奪った? ん? あれ? なんだ、スキルが何も反応しなくなった……お、おまえっ、俺に何をした!」

 氷漬けにされている男は、血の気が引いている顔をさらに青くして、声を荒らげていた。

スキルを奪われるという、初めての行為に対する恐怖心なのか、その目には怒りとは別の感情が垣間見えていた。

「質問をするのはこっちだって言っただろ? 『闇影』」

 俺がそのスキルを発動させると、その男の影から伸びた黒い鞭のような物がその男を縛り上げて、自分の影の中に男を引きずり込もうとしていた。

「は? な、なんだ、これ?」

 ゆっくりとその影に引きずり込まれていくと、男の顔はすぐに恐怖の色に変わった。体が少し禍々しい闇に引きずり込まれただけで、男は精神を犯されたような悲鳴を上げていた。

 あんまり良い声ではないので聞きたくはないが、仕方がないか。

「色々と聞きたいことがあるから、しばらくは拷問の時間だな」

 俺はそう言うと、その男から情報を聞き出すために、『闇影』を使って口を割らせることにしたのだった。