「アイクさん?!」
「アイク!!」
二人の動揺した声が馬車の中に響いていた。顔をしかめながら見た二人の顔は歪んでおり、俺のことを心配そうに覗き込んでいた。
「大丈夫だ……『ヒーリング』っ」
俺は穴の開いた腹部に手のひらを当てながら回復魔法を唱えた。回復魔法の中でも初級魔法のそれでは穴が塞がるには時間が掛かりそうだった。
しかし、俺が溢れ出る『魔源』の魔力を一気に『ヒーリング』に使うと、みるみるうちにその穴が塞がっていくのが分かった。
「くっ……ふぅ。こんなものか」
『ヒーリング』をかけ終えて、傷跡がなくなった部分をさすっていると、俺を心配そうに見ていた二人の顔色が、別の感情に変わっていた。
「す、すごいですね」
「もしかしたら、アイクは人間をやめているのかもしれんな」
「やめてないし、普通に痛かったからな」
目を見開いて驚くアリスと、少し呆れ気味なルーナの表情がそこにあった。
いや、確かにやられたところを急速再生ってモンスターでも中々いないよな。
……確かに、人間離れしてきている気もする。
「アイクよ、『硬化』のスキルでこの馬車自体を『硬化』させておくのだ。すぐにくるぞ」
「え、ああ。『硬化』」
いつになく真剣なルーナの言葉に急かされて、俺は馬車に手を置いて『硬化』のスキルを使用した。
そして、その数秒後。馬車に再び鈍い音が響いた。
先程と違うのは馬車の強度。馬車の壁に当たった二発の衝撃は、馬車の壁に激しくて鈍い音を立てた。
何かが砕けたような音は、壁の強度に負けた投げつけられたものだろう。
そう思ったときに、足元に何かが転がっていることに気がついた。
「これは……氷か?」
そこには馬車の壁の穴を少し小さくしたような氷の塊が落ちていた。おれの体内をくぐってきたせいか、そこには赤い液体が付着していた。
これを吹っ飛ばして、馬車にぶつけたのか。
「なんで急に俺が殺されそうになったんだ? まさか、闇闘技場の時の仕返しとか?」
「違うだろうな。アイクが相手をした中に、こんな攻撃をしてきたものはおらんかっただろう」
もしかして、誰かに恨みを持たれているのかもしれないと思って闇闘技場のことを思い出したが、確かにそんな奴はいなかった。
というか、遠距離攻撃が得意な奴はあんな所には集まらないだろう。
「……私、ですかね?」
俺が思い当たる節がないかと頭を悩ましていると、アリスが申し訳なさそうな顔で言葉を漏らした。
この前までアリスは命を狙われていた。今は死体を偽装して髪もバッサリ切ってはいるが、そのフェイクがバレていたら。
そう思うと、アリスを狙っての犯行というのが一番あり得るような気がした。
「そうだろうな。だが、それならアリスを狙おうはず……いや、『魔源』のスキルを直接狙ったのか?」
「スキルを狙う? そんなことが可能なのか?」
「『ターゲット』というスキルがあると聞いたことがある。対象物本体ではなく、対象物のスキルを狙うことのできるスキルらしい」
ルーナはどこかで聞いたのか、その『ターゲット』というスキルのことを説明してくれた。
今の状態の俺の『スティール』は相手のスキルをランダムで奪うものだ。そのため、欲しいスキルを相手が持っていることが分かっても、そのスキルを奪うまでに何度も『スティール』を浴びせる必要がある。
スキルに対象を絞って狙うことができるということは、そのスキルが手に入ればその欠点を補うことができるということになる。
「……欲しいな、そのスキル」
「どのみち、アイクを攻撃してきた者は始末せねばならん。その前にスキルを奪うというのなら、殺さずに捕獲しよう。……バーサーカー娘、捕獲だからな? お主は特に気をつけるのだぞ」
「わ、私を何だと思ってるんですか?!」
バーサーカー扱いされていることの訂正を求めるアリスの声をそのままに、ルーナは言葉を続けた。
「アイク、『気配感知』のスキルがあっただろ? 使ってみて、辺りに何者かいるか確認できるか?」
「『気配感知』……あった。よく分ったな、ルーナ」
「それは、元々私のスキルだ、馬鹿者め」
ルーナにジトっとした目を向けられて、俺は誤魔化すように視線を逸らした。
たまに忘れそうになるが、俺はルーナからもいくつかスキルを奪っていたのだった。俺はそれ以上追及されない様に、『気配感知』のスキルを使用することにした。
「えっと、『気配感知』……いたな。え、これかなり遠くにいるぞ」
『気配感知』のスキルを使用すると、簡易的な周囲のマップとその周辺にいる気配を感じ取ることができた。
俺達がいる場所から目視でその存在を確認することができないくらい、かなり遠くの方に一つの気配があることが分かった。
「遠いのか。どうやって距離を詰めるかが問題というわけか」
「……一つ、考えがある」
先程のルーナの言葉を聞いて思い出したが、俺はルーナのスキルをいくつか奪っている。その中でも、この状況を覆してすぐにその気配の所まで行けるスキル。それが一つだけあったことに気がついた。
「『竜化』のスキルを使うのはどうだろうか?」
以前はルーナに使うなと言われていたスキルの一つだ。竜になって飛んで移動をすれば、この距離でもすぐに移動をすることができる。
『魔源』のスキルを使うことができる今なら、『竜化』のスキルを扱うこともできるのではないか。
俺はそんなことを思いついたのだった。
「アイク!!」
二人の動揺した声が馬車の中に響いていた。顔をしかめながら見た二人の顔は歪んでおり、俺のことを心配そうに覗き込んでいた。
「大丈夫だ……『ヒーリング』っ」
俺は穴の開いた腹部に手のひらを当てながら回復魔法を唱えた。回復魔法の中でも初級魔法のそれでは穴が塞がるには時間が掛かりそうだった。
しかし、俺が溢れ出る『魔源』の魔力を一気に『ヒーリング』に使うと、みるみるうちにその穴が塞がっていくのが分かった。
「くっ……ふぅ。こんなものか」
『ヒーリング』をかけ終えて、傷跡がなくなった部分をさすっていると、俺を心配そうに見ていた二人の顔色が、別の感情に変わっていた。
「す、すごいですね」
「もしかしたら、アイクは人間をやめているのかもしれんな」
「やめてないし、普通に痛かったからな」
目を見開いて驚くアリスと、少し呆れ気味なルーナの表情がそこにあった。
いや、確かにやられたところを急速再生ってモンスターでも中々いないよな。
……確かに、人間離れしてきている気もする。
「アイクよ、『硬化』のスキルでこの馬車自体を『硬化』させておくのだ。すぐにくるぞ」
「え、ああ。『硬化』」
いつになく真剣なルーナの言葉に急かされて、俺は馬車に手を置いて『硬化』のスキルを使用した。
そして、その数秒後。馬車に再び鈍い音が響いた。
先程と違うのは馬車の強度。馬車の壁に当たった二発の衝撃は、馬車の壁に激しくて鈍い音を立てた。
何かが砕けたような音は、壁の強度に負けた投げつけられたものだろう。
そう思ったときに、足元に何かが転がっていることに気がついた。
「これは……氷か?」
そこには馬車の壁の穴を少し小さくしたような氷の塊が落ちていた。おれの体内をくぐってきたせいか、そこには赤い液体が付着していた。
これを吹っ飛ばして、馬車にぶつけたのか。
「なんで急に俺が殺されそうになったんだ? まさか、闇闘技場の時の仕返しとか?」
「違うだろうな。アイクが相手をした中に、こんな攻撃をしてきたものはおらんかっただろう」
もしかして、誰かに恨みを持たれているのかもしれないと思って闇闘技場のことを思い出したが、確かにそんな奴はいなかった。
というか、遠距離攻撃が得意な奴はあんな所には集まらないだろう。
「……私、ですかね?」
俺が思い当たる節がないかと頭を悩ましていると、アリスが申し訳なさそうな顔で言葉を漏らした。
この前までアリスは命を狙われていた。今は死体を偽装して髪もバッサリ切ってはいるが、そのフェイクがバレていたら。
そう思うと、アリスを狙っての犯行というのが一番あり得るような気がした。
「そうだろうな。だが、それならアリスを狙おうはず……いや、『魔源』のスキルを直接狙ったのか?」
「スキルを狙う? そんなことが可能なのか?」
「『ターゲット』というスキルがあると聞いたことがある。対象物本体ではなく、対象物のスキルを狙うことのできるスキルらしい」
ルーナはどこかで聞いたのか、その『ターゲット』というスキルのことを説明してくれた。
今の状態の俺の『スティール』は相手のスキルをランダムで奪うものだ。そのため、欲しいスキルを相手が持っていることが分かっても、そのスキルを奪うまでに何度も『スティール』を浴びせる必要がある。
スキルに対象を絞って狙うことができるということは、そのスキルが手に入ればその欠点を補うことができるということになる。
「……欲しいな、そのスキル」
「どのみち、アイクを攻撃してきた者は始末せねばならん。その前にスキルを奪うというのなら、殺さずに捕獲しよう。……バーサーカー娘、捕獲だからな? お主は特に気をつけるのだぞ」
「わ、私を何だと思ってるんですか?!」
バーサーカー扱いされていることの訂正を求めるアリスの声をそのままに、ルーナは言葉を続けた。
「アイク、『気配感知』のスキルがあっただろ? 使ってみて、辺りに何者かいるか確認できるか?」
「『気配感知』……あった。よく分ったな、ルーナ」
「それは、元々私のスキルだ、馬鹿者め」
ルーナにジトっとした目を向けられて、俺は誤魔化すように視線を逸らした。
たまに忘れそうになるが、俺はルーナからもいくつかスキルを奪っていたのだった。俺はそれ以上追及されない様に、『気配感知』のスキルを使用することにした。
「えっと、『気配感知』……いたな。え、これかなり遠くにいるぞ」
『気配感知』のスキルを使用すると、簡易的な周囲のマップとその周辺にいる気配を感じ取ることができた。
俺達がいる場所から目視でその存在を確認することができないくらい、かなり遠くの方に一つの気配があることが分かった。
「遠いのか。どうやって距離を詰めるかが問題というわけか」
「……一つ、考えがある」
先程のルーナの言葉を聞いて思い出したが、俺はルーナのスキルをいくつか奪っている。その中でも、この状況を覆してすぐにその気配の所まで行けるスキル。それが一つだけあったことに気がついた。
「『竜化』のスキルを使うのはどうだろうか?」
以前はルーナに使うなと言われていたスキルの一つだ。竜になって飛んで移動をすれば、この距離でもすぐに移動をすることができる。
『魔源』のスキルを使うことができる今なら、『竜化』のスキルを扱うこともできるのではないか。
俺はそんなことを思いついたのだった。