「くそっ! なんで俺がこんな目に合わなくちゃダメなんだ!」

「本当に、なんでなの……」

 エルドとリンは自分達がしたことを悪びれるわけでもなく、自分達が不遇な扱いを受けたとでも言いたげにうな垂れていた。

「あの殴ってきた奴のせいで、この街でも冒険者をできなくなったじゃないか!」

「また他のギルドに行かないとじゃん。なんで私達が……ていうか、いつまでそこにいるの、ギース。目障りなんだけど」

 二人は怒りのやり場を探していた。反省の色を見せることはなく、ただ自分の感情をぶつける相手を探していたのだ。

 そして、自分達よりも立場の弱いギースが目を付けられたのは自然な流れだった。
 
「は?」

「は? じゃないだろ、お前はもうこのパーティの仲間じゃないんだから、どこかに行ってくれないか? お前のせいでアイクも戻ってこないしな」

「おまえっ、別に俺だけのせいじゃないだろ!!」

 当然、アイクがパーティに戻ってこない理由はギースだけの責任ではなかった。それでも、三人中二人の意見が揃えば、それは多数の意見となり正義になる。

「どう見ても、ギースのせいでしょ。ていうか、アイクがあんなに強いなんて知らなかったんだけど、なに? ギースが私達に隠してたの?」

「隠すわけないだろっ! あいつは弱かったんだよ! 何もできなかったんだ! お前らだって、知ってるはずだろっ!」

 ギースがどれほど声を張っても、その声は二人の耳には届かなかった。ただギースが大声を出して駄々をこねている。そんなふうにしか二人はギースの声を受け取らなかった。

「急成長したってレベルじゃないだろ? ていうか、お前本当に決闘でアイクに勝ったのかよ?」

「そ、それは……」

 今まで、エルドもリンもギースがアイクに決闘で勝ったと思っていた。当然、そうなるとアイクの力はギースよりも下。

 そんなふうに今日まで思っていた。

 しかし、今日のアイクとモンスターとの戦いを見て、そんな認識に疑問を抱いていた。その疑問を抱くのも当然だった。

 ギースはあんなモンスターを一撃で倒したことはない。それは、ずっと一緒に旅をしてきたエルドとリンが一番知っていることだった。

「え? なに、本当に勝ってないの? はぁ?! 私達に嘘ついてたの?!」

「ちがっ、まけっ……俺が、アイクに負けるわけがないだろ!」

 そして、ギースも未だにその事実を受け入れきれていなかった。どこかでアイクの強さを恐れながら、それでも自分が負けたという事実だけは受け入れることができていなかったのだ。

「どうせ土下座でもして、俺達の装備品を返してもらったんだろ? 安い頭で助かったよ」

「おいっ! いい加減にしろよ!」

「……はぁ、もう付き合ってられないな。リン、どこか遠くの街に行って冒険者でもやるか?」

「そうする。あ、ギース。あんたはもういらないから、ついてこないでね」

 エルドとリンはギースにそんな言葉を言い残すと、ギースの方も振り返らずに歩き出した。

そんな二人の姿を見ながら、ギースはぎりぃっと歯ぎしりをさせて怒りを露にしていた。

「誰が行くか! お前らなんか、こっちから願い下げだ!!」

 そんな大声は一瞬街に響いただけで、すぐに街の喧騒にかき消されていった。もはや誰にも届かなくなった声。

 ギースは誰にも相手にされなくなったような気がして、地面を強く叩いていた。

 自分はS級パーティのリーダーだった男だ。S級パーティまで上り詰めた自分が間違っているはずがない。そんな言葉を何度も頭の中で反芻させながら、行き場のない怒りを地面にぶつけていた。

 そして、次第に自分をこんな状況に追い詰めたのはアイクのせいだと思い始めた。アイクが憎い。呪い殺したいほど憎い。

「ああ、あああああ!!!」

 そんなふうに憎悪の気持ちを強くしながら、叫んでいるとそこに一人の男が通りかかった。

「中々良い憎悪の色をしている」

「あぁ! なんだお前は!!」

「……力が欲しいか?」

「力? おまえ、急に何言ってんだ?」

「望むなら、お前に魔法を教えてやろう。なに、お前にぴったりの魔法だ」

真っ黒なローブで身をまとい、病的なクマと痩せこけた顔。背は高いのに細すぎるその人物は、ギースのそんな姿を見てにやりと笑みを浮かべた。

「とある魔法の伝道師をしているものだ。同士よ、共に来るか?」